お子様軍人ジェケット中佐と呪われし孔明扇 その3

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お子様軍人ジェケット中佐と呪われし孔明扇 その3

 三 「つまりだ。我輩が手にしている孔明扇は偽物という訳だな?」  お子様軍人ジェケット中佐の詰問に、俺様は頷く。 「そっか」  寂しそうな奴さんの表情を、俺様はまともに見ていれない。ジェケット中佐……くすんだカーキ色の軍服に身にまとっても、所詮、まだ現役バリバリの小学生に過ぎない。そんな中佐が、何故か俺様を憐れむような瞳でみつめてきている。え、なんで? 「諸葛亮孔明の羽毛扇を手に入れし我輩に嫉妬し、左様な戯れ言を……サンチェス、貴様はなんとも可哀想な奴だ」  中佐は頑なに偽物だと認めなかった。伝説?の孔明扇を手に入れ、諸葛亮孔明になった気分に浸りきっている。傍から見ていれば、バブリーガール御用達のダンス扇子を片手にフリフリ踊っているだけで、諸葛亮孔明らしさなど微塵にも感じられはしないのだから……恥ずかしい事この上ない。 「ところで、その扇子は何処でゲットした?」 「先週、ハーレム地区を散歩していたら、細長いドジョウの様なひげを生やした店主に勧められたのだ」  伝説の孔明扇がニューヨークハーレムで売られている?   ちなみに値段は10ドル。  あ~あ、俺様の確信は深まっていく。紛れもなく諸葛亮孔明愛用のシロモノなんかじゃない。ジャパンがバブル景気で湧いていた頃、ケバケバに化粧したガールたちがクラブハウスの『お立ち台』と云われるステージで腰をくねらせたダンスを披露していた……そこで用いられた扇子。事もあろうかジェケット中佐はそれを孔明扇と騙されて買わされてしまったのだ。  中佐よ……ご愁傷さま。  残念だけど、俺様は早く家に帰ってぐっすり眠りたい。明日はインド料理研究家との料理バトルショーに出演しなければならないのだ。  しかし、しかしだった。 「待て、待つのだ。サンチェス」  なぜか、中佐は俺様を呼び止めてきた。何よ? まだ何かあるの?  奴さんは相変わらず、羽毛扇をフリフリ、腰をクネクネさせながら、 「この孔明扇、全然止められないのだけど、我輩」  俺様は固まった。中佐がわざわざ夜中のセントラルパークに俺様を呼び出した用件とは、意外にも重大だった。
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