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お子様軍人ジェケット中佐と目覚めし伝説のレッドアイ その3
三
真夜中のジンジャ参拝から一週間が過ぎた。
ジェケット中佐は、一学期末テストに向けて勉強を頑張っているのだろうか? 否、きっと中佐のことだ。お参りだけで全てが解決した気分に浸り、試験に備えた勉強などすっぽかしているに決まっている。まったく、仕方の無いヤツだ。
今夜、俺様は久しぶりのプロレス興行に臨む。メキシカンプロレスラー仲間が一同に会して試合を行うのさ。そこで再会した中佐の勇姿に俺様は度肝を抜かれた。
「お子様軍人ジェケット中佐が、四角いリングの上を宙を舞った〜!」
マイケル竹山の騒がしい実況ボイスが試合会場内に響き渡る。
今夜の主役はまさにジェケット中佐に他ならなかった。まるでウシワカマルさながらに、リングポストの上を飛んだり跳ねたり……ドロップキックまで披露。試合相手をまったく寄せ付けない大活躍をしているではないか!
どういうことだ?
いつもの中佐は軍用バイクを爆走させて相手レスラーを轢き殺そうとする。『リングの上の殺人は罪にならないのだ!』が奴の口癖だったというのに……正統派レスラーへの変身ぶりにリングサイドにいる俺様は、寒気を覚える心地だった。
試合後、シャワーを済ませた中佐はランドセルから教科書を取り出す、宿題のみならず、明日の授業に向けた予習まで一気にこなしてしまうつもりらしい。しかも驚くべきは算数の問題を解きながら、軍の緻密な作戦指令書まで作成しているのだ。
「中佐、一体これはどうしたんだ?」
泣き虫で、癇癪持ち、サボり魔、勉強嫌いなヘタレお子様軍人が……すっかり別人。まるでスーパーマン。この五日の間に中佐に何が起きたのか? 何かエネルギッシュなドリンクでも飲み始めたのだろうか? 頭に過ぎったのは、真夜中に参拝した怪しげなジンジャ。参拝して気分をリフレッシュさせただけに非ず、もしや、中佐に摩訶不思議なモノがとり憑いてしまったのではあるまいか?
「悪霊の類が我輩にとり憑いた、だと? 冗談はよせ、サンチェスよ」
否定する中佐。だが、俺様は覚えている。つい先月の雨多い時期に、怪しげな和傘女妖怪に取り憑かれてしまったことを。中佐は自らの顔に取り付けていた眼帯を外しに掛かった。そう云えば、中佐はいつも左眼に眼帯をはめている。何か眼に異常があるのか? と気にかかっていたものの、どうにも本人には訊きずらくてスルーしていたのだが……。
眼帯に今まで隠されていた、中佐の左眼が現れる。キズ一つ付いていない綺麗なまぶたに、つぶらな瞳をパチクリさせる様子を正面から伺っていれば、俺様はある異変に気づいた。
「秘密はこの左眼にある」
「中佐、お前サンの左眼……」
「然り、伝説の『レッドアイ』だ!」
フフフフフ、笑みを浮かべる中佐。奴さんの言う通り、その左眼は文字通りすっかり真っ赤に染まっている。まさに『レッドアイ』だった。
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