お子様軍人ジェケット中佐と呪われし孔明扇 その4

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お子様軍人ジェケット中佐と呪われし孔明扇 その4

 四 「ボク……いや、我輩、このままずっと羽毛扇をフリフリしたままなの? サンチェスどうしよ?」  ジェケット中佐は涙目になって訴えてきた。どうやら先週末に手に入れて以来、件の羽毛扇を片時たりとも離していない様子……いや、手放したくても放せない。身体と同化してしまったらしい。 「マジか?」  俺様は中佐の握った羽毛扇に手を伸ばすが、途中で引っ込めてしまう。奴さんの話が本当ならば、これはまさしく呪われし扇。下手をすれば、俺様まで呪いにかかる。一本の扇を二人そろって握り、ヒラヒラ振りながら踊る恰好だけは勘弁してもらいたかったのだ。 「明日から学校なんだけど、我輩、扇をヒラヒラさせてたら先生に怒られちゃうよ」 「まあ、そうだよな」 「間違いなく、100ペナ認定されちゃうんだ!」 「100ペナ?」  中佐は背中のランドセルから一冊の児童手帳を取り出してきた。俺様に向かって偉そうに投げて寄越す。手帳をパラパラとめくれば、数ページに渡って日付つきのスタンプがおびただしい数、押されていた。 「それらは人呼んで『ペナスタ』……ペナルティスタンプだ」  ジェケット中佐が通っている私立小学校は規律に厳しいらしい。問題ある素行をしでかす度に担任の先生からペナルティを課されていく……ペナルティを表すスタンプが100個貯まると、晴れてめでたく退学処分になるらしい。中佐の児童手帳に押されているスタンプの数といえば、 「ちょうど99個貯まっているかな」  まるで夏休みのラジオ体操に毎日通った様な、誇らしい表情で中佐は答えてくる。お子様軍人の脳内辞書には『我輩の辞書には、反則は無い』なる格言があるのか。けれども、そんな中佐でもいよいよ危機感を覚えたらしい。 「ボクが……否、我輩が明日のホームルーム中にこの孔明扇で見事な立ち回りを見せれば……」  立ち回り? ああ、羽毛扇ヒラヒラ、腰クネクネダンスの事ね。 「間違いなくペナルティ認定。100ペナ達成で退学処分になるであろう」  中佐の顔は今にも泣き出しそうだ。コレ程の大人物ならば、別に小学校ぐらい通わなくても問題なさそうだが、いっその事、退学を機に軍隊とルチャドール活動に精を出してくれれば良い。しかし、本人は頑なだった。退学処分だけは逃れたいらしい。 「ルーシーが! 愛しのルーシーと別れたくはない!」  とブツブツ呟いている。どうやら学校には好きな女子がいるらしい。  俺様は腕時計をチラ見する。明日登校する朝まであと7時間くらいしか残されていない。それまでの間に、中佐の孔明扇を……いや、怪しげなる扇をどうにか処分しなければならないのだ。 「まずは孔明扇を買った店に行ってみるか」 「そ、そうか! その手があったか!」  しかしだった。  俺様二人が真剣に話し込んでいる間にも、何人もの見知らぬニンゲン達が傍を通り過ぎて公園内へと。しかも、そろいもそろって扇を空に掲げてフリフリ、残りの手は腰に手を当て、腰をフリフリさせて行進していくのだ。  なんだコレ? なんとも摩訶不思議な現象を眺めている内に、ジェケット中佐まで勝手に行進し始めた。 「おい。中佐、どうしたんだ?」 「カラダが勝手に、止まらないよ~」  フリフリクネクネさせながら、奴さんはセントラルパークの奥、暗闇に消えていった。
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