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お子様軍人ジェケット中佐の、今日はカッパ日和 その2
二
本日は晴天、絶好の授業参観日なり。
授業参観のイメージとは、静まり返った中、児童たちはガチガチに緊張しているものだが、科目が家庭科、それも調理実習とくれば、話は別だ。グループを組んで仲良く一緒にサンドウィッチ作りに精を出せば、室内は賑やかな話声で満たされる。児童の素顔を見る事ができるのだ。
おや? どうやらどのテーブルもサンドウィッチが出来上がったらしい。保護者達はぞれぞれのテーブルに案内されていく。中佐も手を挙げて呼んできた。さて、どんなサンドウィッチを食べさせてもらえるのか? だが、今の俺様はそれどころではなかった。
ぐりゅぎゅるグルるる~!
腹部から強烈な音が響き渡る。空腹な訳ではない。下痢ピー、もう俺様は我慢できなかった。
「ちょっとトイレに……すぐ戻る……から」
さっきまでの勇猛な仁王立ちは消え、内またの両足に、体は前傾姿勢、震える右手を壁にタッチしながら、ヨロヨロと実習室を後にする。まるで生まれたての小鹿の如く。勿論、向かうはトイレ。頼む間に合ってくれ。神様に祈りながら、個室トイレにどうにか辿り着く。ピンチを脱した後、俺様は洗面所で手を洗うことにした。
下痢ピーの原因はなんだ?
何か変なモノでも食べただろうか?
昨夜のピザか?
中佐が特大ピザを持って訪問してきたのだ。「明日の授業参観はよろしく頼む」とお子様なりに気を利かせてくれたらしい。だが、とびきりビッグサイズのピザをたった独りで平らげるのは、かなりヘビーだった。
ふ~まったく、酷い目にあったぜ。
俺様は蛇口にぶら下がっていた石鹸を握りしめる……その時だった。廊下の方から悲鳴が聞こえた。
な、何だ?
じっと耳をすましてみる。今度は男の怒鳴り声が。俺様は思わず蛇口にぶら下がっていた石鹸を網ごと引きちぎり、トイレの扉を押し開け廊下に飛び出す。左右を見渡した。
あそこは……調理実習室に違いない!
一体、何か起きたのか?
授業参観が行われている最中にトラブルが?
あり得ない、と思いたいも、あそこには一人、強烈なるトラブルメーカーが居る。
ジェケット中佐だ。
だが、此処まで中佐は至って真面目にサンドウィッチ作りに精を出していたかに見えた。それが何かの拍子で激変したのかもしれない。とにかくだ。実習室へ戻ろう。生憎、出入口は保護者たちで溢れかえって前進できない。仕方なく教室と廊下を区切った窓ガラスから様子を伺ってみれば……。
次の瞬間、俺様は言葉を失った。
なんだアイツらは?
正体不明の全身黒づくめの男達が、実習室に乱入、占拠していたのだった。
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