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お子様軍人ジェケット中佐の、今日はカッパ日和 その4
四
「なあ、美味しいサンドウィッチの臭いがしやがるぜ」
十人で構成されている悪魔術軍団の、ボスらしき男が声を発してきた。どうやら連中はサンドウィッチを異常なまでに信奉する闇のカルト教団。サンドウィッチを食し、気に入らない味であれば、料理人を再起不能にまで叩き潰す……アンビリバボーな組織だった。
幸か不幸か、調理実習室には出来上がったばかりのサンドウィッチで一杯だった。
「上手いモノを作れば、解放してやろう。逆に不味かったら我らの宴の生贄となるのだ!」と、ボスは言った。早速、児童達は自分の完成品を持ち、列に並ぶ。《サンドウィッチーズ》の味判定を受ける事になった。
「不味い。マーガリンを入れ過ぎだ!」
「パンがパサパサじゃないか!」
「安易にハムとレタスを挟めば良いと思うなよ!」
次々とダメ出しが……。保護者の為に愛情込めて作った料理があんな奴らに食べられるだけで俺様の怒りのボルテージは上がっていく。だが、反撃はジェケット中佐に任せている。
そしていよいよ、中佐のサンドウィッチが裁定を受ける番になった。大皿にドーム状のアルミ蓋が被せられている。フタが外された瞬間、調理実習室に居合わせた誰しもが、息を呑んだ。
あ、あれは……?
何とも芳醇な香りに、芸術品と見間違うか様な盛り付け?
否、違う。
肝心のパンが使われていない。米? ライス? ごはん?
中佐が作った料理とは、とぐろを巻いた海苔巻だった。
「なぜ、貴様だけがサンドウィッチではなくて海苔巻なのだ?」
ボスから尋問される。そりゃそうだ。今日の調理実習のお題は『サンドウィッチ』……ジャパニーズ海苔巻ではないのだから。割烹着姿の中佐は反論した。
「だってワガハイ、パン派よりゴハン派だもん」
誰しもが唖然とするも、当の本人は何ら悪びれた様子は見せなかった。ボスの身体はプルプル小刻みに震えている。なにしろサンドウィッチを愚弄されたのだからな……。
悪魔術軍団の今宵の生贄は、間違いなく中佐に決定か?
しかも、海苔巻はなんとも不気味ななミドリ色。キュウリをミキサーにかけたペースト状にしたモノを海苔巻に塗りたくっているのだ。
も、もしかして?
俺様は気づく。これは中佐の戦術なのでは? キュウリペーストはダミー。おそらく海苔巻の中にはワサビペーストが大量に塗り込んでいるに違いない。一口食べたら最期。その辛さに身を悶え、卒倒するに違いない。別にパンチやキックだけがバトルではない。中佐は絶えず斬新な戦術を試行錯誤しているのだ。
しかしだった。
勝利寸前の処で、思わぬ言葉が……苦虫をつぶしていた軍団のボスが反撃に転じた。
「ならば、少年。先ずはおまえがこの緑色した海苔巻きを食べてみせよ!」
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