幻のハイウェイ

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         -7- 「おい、恵美、急げ!」  午後12時。山本に手を引かれて、恵美はようやく鳥居美香子のアパートから出た。二人がジムニーに乗ると車はすぐに発進した。国道を走り、ある住宅街に入った。突き当りを右折した場所にぽつんと小さなレンタカー屋があった。山本は駐車場に車を停め、プレハブの事務所に入っていった。しばらくすると山本と初老の男が事務所から出てきた。駐車場の隅に停めてあった1台積みの車載トラックのエンジンをかけると山本は荷台を操作して、ジムニーをトラックに載せた。 「おじさん。ありがとね」  そう言って山本は男に多めの現金を渡した。午後12時20分。山本と恵美はジムニーを積んだ車載トラックに乗って走り出した。高速に乗り山本は室蘭インターまで時速120キロでトラックを走らせた。  午後1時40分。室蘭インターを降りると、海沿いの広い駐車場にトラックを停め、ジムニーを荷台から降ろし、山本と恵美はジムニーに乗って地球岬まで行った。午後2時。二人は幸せの鐘を鳴らしたあと地球岬の売店で毒饅頭を買った。 「俺たちがやった証拠は何も残っていない。アリバイも完璧。そもそも悪いのは俺に付きまとった美香子(あいつ)だ」          * 「つまりレンタカー屋さんで借りた車載トラックにジムニーを載せて高速で移動したのね?」 「実に単純なトリックだった」 「私たちを夕食に誘ったのは?」 「僕らを利用して、アリバイをより確固たるものにしようとしたんだろう」 「何だか複雑な気分・・・」    由美がテレビを消してラジカセを持って来た。それから一本のカセットテープを再生した。ハイウェイ・イリュージョンの『ネバー・フォーゲット・アワ・ドリームズ』が流れ始めた。研ぎ澄まされた哀愁の旋律に絶妙なテンポを刻むドラムと華やかなギターの響き、そして高音まで伸びる山本のヴォーカルが部屋に響いた。  その曲には光るものがあった。有名プロデューサーのコネなどなくとも、山本は成功できたはずだ。そう思うと、僕はとても悲しくなった。
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