理想と現実の2人

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「良太郎さーん、歯を磨くよー。洗面所にお越しくださーい」 今朝も母さんが叫んでいる。 「良太郎さーん!」 「良太郎さーん! 立ち上がりまーす」 「良太郎さーん! 歯を磨くよー。洗面所に行くよー」 だんだん声が大きくてきたと思ったら、居間の扉が開く。じいちゃんの歯ブラシを持った母さんがわめき散らしながら現れた。まあ、毎日のことだ。 「Hey! 良太郎さん。デイサービス行く前に歯を磨こう! 洗面所へLet's Go!」 「おう、歯を磨くのか。くれ」 じいちゃんは、定位置のソファに座ったまま手を差し出す。歯ブラシをここへ持ってこいと言っているんだろう。 「いかん。洗面所に行って磨きます」 母さんはきっぱりと言う。 居間で歯ブラシを渡すと大変なことが起こる。歯ブラシを口にくわえた状態で洗面所まで行き、その歯ブラシを洗って終了したことにしてしまうのだ。 じいちゃんは過去に誤嚥性肺炎で2回病院にかかっている。そのうち1回は入院した。 そして、歯医者さんから「誤嚥性肺炎を防ぐには歯磨きが大切」と言われた。 だから私たちは『じいちゃんにしっかり歯を磨かせること』を日課にしているのだ。 「じいちゃん、母さんの言うことを聞こうねー」 とっしーがじいちゃんに声をかける。 「はい。じいちゃんはとーくんのいうことを、ちゃんときいとります!」 じいちゃんは、とっしーに向かって敬礼している。
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