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「おうい、お茶をくれ」
この、長年連れ添った夫から発せられる言葉。鈴木恵子は心の中でざわめきを感じていた。
恵子は今の生活に、小さなことながら我慢ならない不満があった。とにかくお金がないとか、パートナーが浮気をしているとか、そういった壊滅的な事情はない。当面の生活に困ることはないし、どちらかと言えば裕福な方で、娘にも孫にも恵まれた。きっと世間の人々に比べれば幸せなのだろう。それでも、恵子にとっては我慢ならないことだった。
鈴木恵子と、鈴木和彦。結婚生活も40年ほどを過ぎ、お互い67歳。和彦は65歳までの会社員人生を立派に勤め抜いた。その後は夫婦水入らずで2年ほど、年金を頼りに慎ましく生活をしているが、現役時代の和彦の働きぶりのおかげで貯金もある。お互い散財するタイプでもないので、これからの人生の不安はない。
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