私の名前は「おうい」じゃありません!

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 しかし、これから先の人生を思い描いてみる。今は67歳だから、あと20年から30年は夫と二人で生きていくことになるのだろうか。思ったよりも長い。今まで40年ほど夫婦としてやってきたわけで、これでもまだ全体の半分を過ぎ始めたということだ。つまり、夫婦生活はやっと後半戦に突入したといっても過言ではない。  しかも、これから後半戦は、前半戦とは大きく異なるはず。前半戦は、仕事で疲れて帰る夫を支えながら子供を育てていた。駆け抜けてきた、という感じだってある。充実していてあっという間の前半戦だった。  それに対して後半戦は、ただ家でゆっくりとした時間を過ごし続ける。定年した夫とともに。なんともゾッとするではないか。そんな消化試合のような感情で人生を終えてしまうのだろうか。  せめて、新婚のときとまでは言わずとも、夫には名前を呼んでもらいたい。名前を呼んでもらって慎ましくも幸せを噛み締めて過ごしたいものだ。それだけで、生活に潤いが生まれてくるし、私はここにいる! という気持ちにもなるのだろう。  そこで、だ。恵子(けいこ)はあることを思いつき、それを実行に移した。
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