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「アナタさん、最近はよく来てくれるわね」
タバコなのか酒なのか良く知らないが、カスれた声が耳に心地よい女性が話しかける。
「あぁ、さんはいらないんだ、あなたでいいよ」
「ふふ、わかったわアナタ、今日もいつものでいい?」
自分の身に降りかかった奇妙な体験を誰かに話したいと思ったアナタは、元職場の、数か月ほど前に定年を迎えた後輩を連れてスナックへ繰り出していた。
「いやぁ先輩の奥さんも楽しい人ですねぇ。まぁ引退したら、名前変えてもそんなに問題ないですしね」
スナックのママには名前を呼ばせ、疑似的に夫婦になったような、そんな楽しみ方をアナタは見つけていた。後輩には「先輩」と呼ばせているのは元からのことなので、違和感もない。浮気の願望があるわけではないが、異性との適度な会話はあってもいいのじゃないか、これは67歳のアナタがたどり着いた結論でもあった。
家に帰れば雄宇一との生活も、以前よりは心弾むものとなったし、外でのちょっとした楽しみもある。アナタは人生の後半に訪れた春を満喫することにした。
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