5人が本棚に入れています
本棚に追加
ある夜のことだった。紗那が腹部の激痛を訴えて苦しみ始めた。急ぎ救急車を呼んで病院に運んでもらい診察を受けた。結果、胎盤の早期剥離だと診断され、このままでは危険だと緊急で帝王切開が行われることになった。
「先生、紗那は大丈夫なんですか!?」
手術室から出てきた医師に掴みかからんばかりに問う。
「最善を尽くしていますが、母体の出血が酷く母子ともに危険な状態です。最悪の場合、どちらかを選ばなければなりません。残酷な質問ですが、その場合……母子どちらを優先しますか?」
「どちらかなんて選べる訳ないだろ!?アンタ医者だろ!?だったらどっちもなんとかしてくれよ!」
無理を言っていることは重々承知だった。医師だってただの人間だ。どうにもできないことだってある。それでも。どちらかを選ぶなんてできない。できる訳がなかった。
「横山さん!今は一刻を争う状況です!早急に決断してください!」
紗那はこどもを優先してと言っていた。でも、俺は紗那を世界で一番愛している。紗那が居なければ俺は生きていけない。紗那が居ない世界なんて考えられない。紗那さえ居てくれればそれでいい。他には何もいらない。俺には、紗那が一番大事なんだ。だから。
「さ、紗那、と、約束したんです……。だから……こどもの命を優先して、ください……」
最初のコメントを投稿しよう!