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京都府下 某オフィスビル 応接室 またはタナちゃんの任侠入門
ドン!!!!!!!!!
何かが落ちる音とほぼ同時に
バリバリバリバリ!!!!! ガラガラガシャーン!!!!!
破壊音がその部屋に響いた
ちょっとした応接室ではあるが
「はーーーーー?あんたらには極道のプライドはねぇのか!!!正座しろ、正座!!!何ソファにふんぞり返ってんだ、この野郎!!!あんた達、長年この京都の町を護ってきたって自覚は何処にやった?半グレだか外人だか言うハンパもんにシマ荒らされて、泣き寝入りって、任侠は何処にやったんだ!極道ってのはな、堅気から嫌われ恐れられるけど、その堅気を護ってやるのが任侠だろうが!!!!あたしが言ってることが間違ってると思うんなら反論してみやがれ!!!!!」
黒檀製のローテーブルにヒールの足を振り下ろした体勢のままで、妙齢の女性が息ひとつ乱さずに捲し立てていた
肩までの髪を振り乱し、縁無しメガネを掛けたその紺のスーツ姿は…明らかに堅気にしか見えない
見えないのだが、言葉の端々からはソッチ方面の人としか
その証拠に…
その前には明らかにその筋の人間とわかる黒のスーツ姿の男が二人、俯いて座っている
勿論椅子やソファの類ではなく、床に正座だ
因みにこの部屋、周囲に虎と龍の金屏風があり、その前では黒光りする拳銃を軟らかそうな布で拭いている女性が三人、無言で座っている
ただ違うのは…正座させられている男性陣と桁違いの殺気を放っていることだろう
啖呵を切った女性に何かあろうものなら、その手にした黒光りするモノが火を吹くのは間違いようのない事実に違いない
「今すぐ帰って集められるだけ…んにゃ全部兵隊集めな!その半グレどもと外人どものヤサにカチコミ掛けるんだよ!!…心配いらないわよ、裁判になってもあたし達アイ法律事務所が付いてるんだからね!!何ボーっとしてやがる!さっさと行きやがれ!!!!!」
極道さん達が大慌てで部屋を辞し、その建物から出て行ったのを窓から確認すると…
「グラン!ペリエお代わり!!」
今の今まで空気だった男にキールのグラスを突き付けた
「タナちゃんお前さ、京都を護りたいのはわかるけど、カチコミを推奨するのは弁護士としてどうなんだよ…相手にだって口はあるんだぞ?」
溜め息混じりにグラスにペリエを注いでやりながら男がぼやく
それを一息に干した女性、タナちゃんはその意見をフンと鼻で一蹴し、懐から一通の封筒を取り出しグランに渡した
表書きには「嘆願書」と書かれている
何だよこれ…言いながらグランが開封済みのそれの中身を見ていく…
「はあ?何だよコレ!地元の商店街からの依頼書じゃんか!」
そう、その中身は半グレと不法滞在の外国人による被害と極道さんのあまりの情けなさに全部をどうにかしてほしいとの嘆願書…法律事務所への正式な依頼書だったのだ
「…お前…最初から全部潰すつもりで…」
グランがあまりと言えばあまりなひどい仕打ちに、極道さんに同情の意で首を振る
「当たり前でしょ、今日の同窓会をあたしは諦めたんだぞ?これくらいは許されるわよ!」
そういう彼女のスーツの襟元には、天秤のマークの金バッジが燦然と輝いていた
「三人とも、久しぶりに実弾演習よ、思いっきりやってやんなさい?取締役には害虫駆除の許可もらってあるんだし、ヤクザも半グレも不法滞在の外国人どもも、ただの一人も生かして帰すんじゃないわよ?」
部屋にいた三人の女性が揃って音もなく立ち上がり、一礼して部屋を辞した
…ウソのだけどね…同じく同窓会を諦めざるを得なかった相方が小さくそう呟いたのはグランの耳が聞くことを拒否した
このオフィスビルの上層階には描や冴香の元職場の本社があり、彼女達のような「掃除屋」が日々訓練に勤しんでいるのだ
「あー…ところでさ…グラン、テーブル今月まだ二つ目だよね?」
さっきまでの啖呵が嘘のように普通の口調で確認してみるも
「悪い、タナちゃんが壊したのは三つ目、あとヒロとトモチが二つずつだから、今日で単独トップに立ったな…」
飛び散った黒檀を拾い集めながら、今度からもっと安いのか固いのか、いや大理石でもこいつらは壊しかねないからやっぱり安上がりの…そんなテーブルを考慮しようとグランは思った
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