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「おい、俺の嫁――美沙都はいるか!?」
「なっ!? 煉先輩!?」
毎日来る山里先輩に周りも慣れてきたのか、最近ではそこまで騒がしくなかった昼休み。
今日は珍しく廊下が騒がしいなと思ったらまさかの煉先輩だった。
あまり騒ぎを大きくしてほしくなくて、わたしはすぐにドアのところに来た煉先輩のもとへ行く。
「ど、どうしたんですか!? 教室に来るなんて」
いつもは放課後帰り際に遭遇するはずの煉先輩に戸惑う。
「いい加減滝柳に邪魔されるのもうんざりしてきたんだよ。それに、話したいこともあったからな」
「話したい事、ですか?」
「ああ。この間女子連中に呼び出されたって聞いたぞ? で、具合悪くなって倒れたって」
「あ、それは……」
まさか煉先輩の耳にも入っていたなんて。
もしかして心配してくれてたのかな?
優しいところもあるんだなって見直しかけたけれど、ちょっと違ったらしい。
「俺から逃げ回ってばかりだからそんな事になるんだよ。俺の嫁になるって言え、そうすればちゃんと嫁だから手を出すなって宣言して守ってやる」
「は?」
何だかズレた物言いに頭がついていかない。
煉先輩から逃げ回っているから女子に呼び出されたってこと?
え? 違うよね?
煉先輩だけが原因じゃなかったし……。
とりあえず。
「えっと……とりあえず嫁にはなりませんよ?」
「お前、この後におよんで!」
目を釣り上げる煉先輩にビクッと思わず震えるけれど、わたしが好きなのは風雅先輩だもん。
例え両想いになれなかったとしても、だからといって煉先輩の嫁になんてなれない。
「お前が俺の嫁になるのは決定だって言っただろ? さっさと惚れろよ!」
「む、無理ですー!」
怒鳴る勢いで言われて涙目になったけれど、頷くことはやっぱりできない。
「無理じゃねぇ! じゃあ今からでもデート行くぞ! 来い!」
イラついた様子の煉先輩はそう言って手を伸ばして来た。
「ええ!?」
叫びながら何とか煉先輩の手から逃れようと後ろに下がると、間に仁菜ちゃんが入ってくる。
「ダメですよ。授業サボるつもりですか?」
「仁菜ちゃん……」
煉先輩が怖かったから、仁菜ちゃんの助けがとても嬉しい。
でも煉先輩からしてみればただの邪魔者にしか見えないみたいで……。
「ああん? 邪魔すんな」
目つきをさらに悪くさせて凄んでくる。
仁菜ちゃんも流石に怖かったみたいで、ビクッと震えた。
「あれ? 何で日宮がいるの?」
そこへ場違いなほどのほほんとした声が響く。
見ると、いつものようにお菓子を持ってきてくれたらしい山里先輩がいた。
「ああ? お前こそ何で一年の教室になんか来てるんだよ、那岐」
不機嫌そうに問い質す煉先輩にもひるまず、山里先輩は無害そうな微笑みを浮かべてわたしを見た。
「僕はそこの瀬里さんに毎日お菓子をあげててね。……もう一度聞くよ? 日宮は何でいるの?」
微笑みは優しそうなのに、なんでだろう? 後半の言葉には冷気を感じた気がする。
「美沙都に?……俺は今からこいつとデートに行くんだよ。邪魔すんな」
「へぇ……デートねぇ? それは瀬里さんも了解してるの?」
何だかさらに冷たくなった声音に戸惑いつつ、わたしは聞かれたことに答えた。
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