木霊のコタちゃん

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*** 「おい、俺の嫁――美沙都はいるか!?」 「なっ!? 煉先輩!?」  毎日来る山里先輩に周りも慣れてきたのか、最近ではそこまで騒がしくなかった昼休み。  今日は珍しく廊下が騒がしいなと思ったらまさかの煉先輩だった。  あまり騒ぎを大きくしてほしくなくて、わたしはすぐにドアのところに来た煉先輩のもとへ行く。 「ど、どうしたんですか!? 教室に来るなんて」  いつもは放課後帰り際に遭遇するはずの煉先輩に戸惑う。 「いい加減滝柳に邪魔されるのもうんざりしてきたんだよ。それに、話したいこともあったからな」 「話したい事、ですか?」 「ああ。この間女子連中に呼び出されたって聞いたぞ? で、具合悪くなって倒れたって」 「あ、それは……」  まさか煉先輩の耳にも入っていたなんて。  もしかして心配してくれてたのかな?  優しいところもあるんだなって見直しかけたけれど、ちょっと違ったらしい。 「俺から逃げ回ってばかりだからそんな事になるんだよ。俺の嫁になるって言え、そうすればちゃんと嫁だから手を出すなって宣言して守ってやる」 「は?」  何だかズレた物言いに頭がついていかない。  煉先輩から逃げ回っているから女子に呼び出されたってこと?  え? 違うよね?  煉先輩だけが原因じゃなかったし……。  とりあえず。 「えっと……とりあえず嫁にはなりませんよ?」 「お前、この後におよんで!」  目を釣り上げる煉先輩にビクッと思わず震えるけれど、わたしが好きなのは風雅先輩だもん。  例え両想いになれなかったとしても、だからといって煉先輩の嫁になんてなれない。 「お前が俺の嫁になるのは決定だって言っただろ? さっさと惚れろよ!」 「む、無理ですー!」  怒鳴る勢いで言われて涙目になったけれど、頷くことはやっぱりできない。 「無理じゃねぇ! じゃあ今からでもデート行くぞ! 来い!」  イラついた様子の煉先輩はそう言って手を伸ばして来た。 「ええ!?」  叫びながら何とか煉先輩の手から逃れようと後ろに下がると、間に仁菜ちゃんが入ってくる。 「ダメですよ。授業サボるつもりですか?」 「仁菜ちゃん……」  煉先輩が怖かったから、仁菜ちゃんの助けがとても嬉しい。  でも煉先輩からしてみればただの邪魔者にしか見えないみたいで……。 「ああん? 邪魔すんな」  目つきをさらに悪くさせて凄んでくる。  仁菜ちゃんも流石に怖かったみたいで、ビクッと震えた。 「あれ? 何で日宮がいるの?」  そこへ場違いなほどのほほんとした声が響く。  見ると、いつものようにお菓子を持ってきてくれたらしい山里先輩がいた。 「ああ? お前こそ何で一年の教室になんか来てるんだよ、那岐」  不機嫌そうに問い質す煉先輩にもひるまず、山里先輩は無害そうな微笑みを浮かべてわたしを見た。 「僕はそこの瀬里さんに毎日お菓子をあげててね。……もう一度聞くよ? 日宮は何でいるの?」  微笑みは優しそうなのに、なんでだろう? 後半の言葉には冷気を感じた気がする。 「美沙都に?……俺は今からこいつとデートに行くんだよ。邪魔すんな」 「へぇ……デートねぇ? それは瀬里さんも了解してるの?」  何だかさらに冷たくなった声音に戸惑いつつ、わたしは聞かれたことに答えた。
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