流れ込んでくる嫉妬

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 何も答えられずにいても彼女達の話は続いて行く。 「山里くんにもそうとう気に入られているわよね? 毎日お菓子もらっちゃってさ」  別の子がそう口を開く。  そこから流れ込んでくるのも嫉妬の感情。 「まあ? 餌付けしてるようにしか見えないけれどね」  クスクスと数人が笑う。  さっきよりも多い嘲りに思わず胸の辺りをギュッと掴んだ。  流れ込んでくる。  でも、まだこれくらいなら大丈夫。  お願い、この辺りで終わって……!  そんなわたしの思いなど知らない彼女達はさらに続けた。 「滝柳くんとなんて、お姫様抱っこで一緒に空まで飛んで……ちょっとずうずうしいんじゃないかしら?」 「そうよね、滝柳くんは人前で翼を見せることだってあまりしないのに……あなた、調子に乗らないでよね?」  今度はあからさまな嫉妬。  その途端、わたしの意志とは関係なしに彼女たちの胸の前に《感情の球》が現れる。  やだ、だめっ!  色とりどりの《感情の球》。  今それらは全て、赤に近い紫色のモヤをまとっている。  でもそれは鮮やかな色じゃなくて、グレーが混ざった不気味な色。  嫉妬の感情。  それが今わたしに向けられている。  前と同じ。  ううん、前よりも質と量どちらも大きい。  いつもならコントロール出来ているはずの力が制御出来ない。  怒りや嫉妬みたいな負の感情を直接向けられると、勝手に流れ込んで来てしまう。  それを小学五年生のあのとき知った。  あのときは今みたいに勝手に《感情の球》が見えて、嫉妬が直接流れ込んできたところで怖くなって泣いた。  そのすぐ後に助けが来たから、それだけで済んだ。  でも今は……。  き、気持ち悪い。  怖いし、泣きたくなってくる。  でも前よりも強いその毒のような感情は、恐怖よりも直接的な気持ち悪さをわたしに与えた。  これ以上は……本当に無理……。  胸を押さえ、口を引き結んで吐き気に耐える。  でも、わたしがそんな状態になっても彼女達は話すのをやめない。 「風雅くんは山の神の大事なものを守るために霊力を直接与えられたあやかしなのよ? 分かる? 特別なの」 「そんな特別な人が本気であなたみたいな子を大事にするわけないじゃない」  ――ツキン。  吐き気や胸の苦しさとは別に、針を刺されたような小さな痛みを感じた。 「風雅くんには使命があるの。その使命とあなたを天秤にかけたら、あなたなんてアッサリ捨てられるに決まってるわ」  ――ズキン。  今度はハッキリと胸に痛みが走る。  どうして痛むの?  風雅先輩は、そんな薄情な人じゃない。  そんなことはわたしに向けてくれている笑顔を見ているだけでも分かるのに。  なのに、どうして今の言葉でわたし傷ついてるの?  気持ち悪さと胸の痛みに、もうどうしていいのか分からなくなる。  嫉妬の感情は今もまだ流れ込んできていて、もう立っていられそうにない。  とにかく吐き気を抑えるために口を手で覆った。 「とにかく、あなたはそういうのをちゃんと自覚してくれれば……って、え? 何? どうしたの?」  口を押さえて、今にも倒れそうな感じにふらついているわたしを見て流石におかしいと思ったらしい。  やっと話すのをやめてくれる。  同時に戸惑った彼女たちの《感情の球》も消えてくれて、毒のように流れてくる負の感情も止まった。
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