流れ込んでくる嫉妬

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 ホッとしたけれどもう立っていることは出来なくて、崩れるようにしゃがみ込んでしまう。  感情の流れが止まってもまだ残る気持ち悪さに視界がぐるぐるする。  そんな気持ち悪さを耐えるのが精一杯で、言葉を出すことも出来ない。 「あ、そういえばこの子サトリだっけ? 心の声も聞こえちゃってたとか?」  一人がハッとしてそう呟いた。 「え? でもコントロール出来てるんじゃなかったの?」  これはクラスメートの雨女の子かな?  だめだ、気持ち悪すぎてそのあたりすら良く分からない。  そうして彼女たちの間に戸惑いが広がる中、聞き覚えのある鋭い声がかけられた。 「あんたたち、何してるんだ!?」  走って近づいて来るその人に視線を向けると、わたしの中に安心感が広がる。  風雅先輩……。  いつも、わたしを助けてくれるのは彼だった。 「っふ、風雅くん?」 「あ、いや、これはその……」  焦り始める彼女たちをかき分けるようにわたしのところに来てくれた風雅先輩は、そっと背中に手を当てて優しく撫でてくれる。  その温かさに、気持ち悪さが少し引いてくれた。  そんな彼の肩にはコタちゃんが乗っている。  そっか、コタちゃんが呼んで来てくれたんだ。  心配そうにわたしを見つめる目を見返して、ありがとうと心の中で呟く。 「美沙都、大丈夫か?……あんたたち、この子に何をした? 年下相手にこの人数、卑怯じゃないのか?」  彼女たちを睨みつける風雅先輩の声には明らかな怒りが乗せられている。  わたしのために怒ってくれていると分かるから正直嬉しいと思った。  でも、彼女たちは実際には何もしていない。  はじめに言った通り、忠告をしただけ。  わたしが気持ち悪くなっているのは、わたしが彼女たちの感情を読み取ってしまったからだし。 「ふ、ぅが、せんぱい……」  吐き気も少しだけマシになったので、ゆっくり彼に呼び掛ける。  止めるように、風雅先輩のブレザーをキュッと握った。 「だい、じょーぶです……これは、わたしが勝手に……気持ち悪くなった、だけ……ですから……」  とぎれとぎれだけれど、何とか伝える。  いくら何でも、理不尽な怒りを向けさせるわけにはいかないと思ったから。  でも、まだ本調子じゃないのに口を開いたからまた気持ち悪くなって口を押さえてしまう。 「美沙都……」  心配そうにわたしを見た風雅先輩はもう一度彼女たちを睨むように見上げた。 「とにかくこの子は保健室に連れて行きます。もうこんな風に追い詰めないでください」  そう言い終えると、彼はわたしに優しく告げる。 「ちょっと揺れるけど、我慢してくれ。辛かったら叩いて教えてくれればいいから」  そしてわたしを抱き寄せ、慣れた様子で横抱きに抱え上げた。  揺れには少し「うっ」となったけれど、すぐそばに感じる温もりには安心感があってその辛さもすぐに消えてくれる。  そうして戸惑う彼女たちの間を通り抜け、風雅先輩はわたしを保健室に運んでくれた。
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