木霊のコタちゃん

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「してません! 授業サボるわけにはいきませんし」 「そっか、良かった」  すると冷たさが消えていつものホンワカした山里先輩に戻る。  今のは何だったんだろう? 「良くねぇよ。俺が行くって言ったら行くんだ。来い、美沙都」  どこまでも俺様な煉先輩はそう言ってまたわたしに近づいてきた。 「だ、ダメですって!」  間にいる仁菜ちゃんが制止の声を上げるけれど、どかすように肩を押されてしまう。  そして、ついにわたしは腕を掴まれてしまった。 「は、離してください!」 「やだね。行くぞ」  そうして引っ張られると、ブレザーのポケットからコタちゃんが飛び出してくる。 「キー!」  一応学校に連れてきているのは秘密だから、人が多い場所では出てこないように言っていた。  でも、わたしを助けようと出て来てしまったみたい。 「ったく、コイツはいつもいつも!」  イラつきながらもいつものように煉先輩はコタちゃんを掴んで後ろへ放り投げた。  コタちゃんは丁度煉先輩の後ろに立っていた山里先輩の肩に着地する。  その山里先輩は微笑みながら「仕方ないな」とつぶやくと、手のひらに真っ白な炎を出現させた。  なんだろう?  山里先輩の力みたいだけれど、その炎は熱を感じさせない。  不思議に思っていると、炎は山里先輩の手の上で揺らめき霧のように散った。 「え?」  何が起こったのかと瞬きすると、わたしの腕を掴んでいた煉先輩の手がズルリと落ちる。  見ると、煉先輩はボーッとして突っ立っていた。  ううん、煉先輩だけじゃない。  仁菜ちゃんも、周囲にいる他の人たちも同じようにボーッと立っている。 「え? ど、どうしたの? 仁菜ちゃん?」 「瀬里さん、今のうちに逃げよう」  仁菜ちゃんの肩を掴んで揺すっていると、山里先輩に腕を引かれた。 「え? でも仁菜ちゃんが――」 「大丈夫」  困惑するわたしに、山里先輩は安心させるように優しく頬笑む。 「幻術を使っただけだよ。今はみんな幻を見てるだけ。じき、元に戻るから」 「幻術?」  よくは分からないけれど、山里先輩がみんなに酷いことをするとも思えない。  彼の言う通り多分大丈夫なんだろう。 「でも日宮は強いから、きっとすぐに戻ってしまう。だから今のうちに逃げよう」 「あ、えっと……はい」  少しだけ考えて、頷いた。  とにかく今は煉先輩から逃げ切ってしまった方がいいとわたしも思ったから。 「じゃあ行こう」  山里先輩はそう言うと、自然な流れでわたしの手を取り歩き出した。  自然すぎて、ん? と思ったときにはしっかり手を握られていて……。  つながなくても良いんじゃ……なんて言い出せなくなっていた。  しかもその腕を器用に伝って、コタちゃんがわたしの方に移動してくる。 「キー」  定位置でもある肩に乗ると、嬉しそうにスリスリされた。 「ふふっ可愛いな」  こんなときだけれど、コタちゃんの可愛さにホッコリしてしまう。  その様子をジッと見ていた山里先輩もホッコリした表情で口を開いた。 「そんな瀬里さんもとても可愛いね」 「へ?」  山里先輩もコタちゃんを見て可愛いと言うと思ったのに、まさかのわたしだった。 「こ、こんなときにからかわないでください」 「からかってないよ。本気」 「っ!」  いつものホワホワした笑顔で言うから、どう受け取ればいいのか分からない。  でもそうしてなんと言えばいいのか迷っていると、後ろの方から煉先輩の声が聞こえてきた。 「美沙都! 那岐! どこ行きやがった!?」  まだ遠いけれど、怒鳴り声がハッキリ聞こえるくらいには近い。 「もう気づいちゃったのか。流石は火鬼と言うべきか……」  少しヒンヤリとした声でつぶやいた山里先輩は、「とりあえず外に出よう」とわたしを生徒玄関の方へ連れて行った。
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