夫婦とは

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夫婦とは

「さて、6回の私の講座に全部参加してくださった方もそうでないけれど、今日ここに集ってくださった方も一緒に考えてくれてありがとうございました。私は来月も来てまた同じ内容の講座を1回目から行います。1回目は皆さんご存知のようにラジオ体操ですが、運動不足と思われる方はぜひご参加くださいね。日々の積み重ねは効果がありますよ。結婚生活というものも同じだと思います。ちゃんと考えて取り組んでいくことで、日常のなかに発見があり、変化もあり、衝突があっても理解ができるようになる。恋愛の延長で結婚される場合、最初からお互いに相手の個性をしっかり理解されているご夫婦なのでしょうが、『ハッピーマリッジ』の会員さんたちはそうではありません。お相手を一から知るときに、お相手の個性を好意的に見ることができれば、それに対する考え方を合わせて持っておければ、そして日常のなかでそんな気持ちを忘れなければ、いつかたくさんの発見を重ねて「あうん」の呼吸を持つ夫婦になっていけるのではないかと私は思っています。『ハッピーマリッジ』で一人でも多くの方が皆さんのアドバイスを受けて、自分自身も幸せになりながら、お相手も幸せに導けるようになれば良いですね。では半年間ありがとうございました」  千也さんはそんな風に言って深々と頭を下げた。拍手がおこり、皆が口々に「ありがとうございました」と言っている。  ここにいる何人かは、自分が欠席した回の講座が気になったり、もう一度聞きたかったりで、また第四金曜日の第四会議室に来るだろう。そして何人かは「もう一度受けてもいいですか?」と私に質問をしてくるだろう。(この考え方は第2回テーマの『想像力』)  皆が会議室を出て行ったあと、いつものように千也さんにペットボトルのお茶を渡してお礼を伝える。受け取った千也さんは 「あづみちゃんも、今回もご苦労様でした」と頭を下げてくれる。  白いダウンに腕を通しながら、 「そうそう、あづみちゃん。あなたクリスマスはご予定があるのかしら」 といきなり仰った。『ハッピーマリッジ』のスタッフのくせにご予定のない私は、ちょっといじけた風に「いえ特には」と答える。 「それはよかったわ。実は明日から一泊で社長に城崎に連れて行ってもらうのよ。一緒に行かない?」と。  蟹だ! あまりに嬉しいお誘いに「行きます!」と即答していた。  しかし社長に会ったことはない。確か30代でなかなかの二枚目という噂だが。「連れて行ってもらう」ということは社長も一緒だよね? 「あの、でも社長もご一緒ですか?」  私の質問に、千也さんは 「そうよ、私は車の運転ができないもの」 と、にこりと笑った。 「じゃあ集合の時間と場所はメールするわね。朝早いからなるべくあなたの家の近くに迎えに行くわ」  そう言ってスノーマンになった千也さんは、手袋の手を胸の前で振りながら会議室を出て行った。  アルコールスプレーをかけてテーブルを拭きながら、とんでもない約束を瞬間でしてしまったという思いがむくむくしてくる。  しかし社長を運転手にして蟹を食べに行く千也さんと社長の関係って……。  年齢的に考えると……千也さんと社長って…………。(第2回テーマ『想像力』)  いや、今回は深くは考えまい。クリスマスイブの蟹だ。  一年間お疲れ様のメリークリスマスでありがとうございましたの千也さんの報酬に、私もご相伴に預かってしまおう! (ちなみにこの考え方は、第3回テーマの『楽観力』です) 〈fin〉 注:作中のアレコレは千也さんの主観です。特に資料もありませんm(__)m
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