千也さんの講座

1/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

千也さんの講座

 月に一度、第四金曜日、我が社の第四会議室に千也(ちや)さんはやって来る。  千也さんのことを私はよく知っているけれど実はあまり知らない。  女性だけれど年齢は不詳。私より年上なのは間違いない。  身長は152センチ、体重は聞いたことがないけれど痩せてはいない、いやちょっと太ってる。この季節になるとまるでスノーマンみたいな膝下まである白いダウンを着ている。だから余計にコロコロして見える。以前、一緒に飲んだときにもう少し薄手のダウンを勧めたことはあるけれど、千也さんは「これ、転んでも痛くないのよ」と笑って言っていた。白いダウンを着て千也さんが転んだことは知っているけれど、それがどこでどんな風にだったのかは知らない。  千也さんは肩にはかからないウェーブがかったヘアスタイルをしているが、それが天パなのかパーマなのかは知らない。少なくとも私が入社してニ年は変わっていない。  この講座を引き受けてくれて三年、千也さんは我が社から金銭的な報酬を得ていない。だが年末に社長の奢りで城崎に蟹を食べに行くことは知っている。だから社長の知人であるこは知っているけれど、どんな関係なのかは知らない。「城崎の蟹は美味しい」以前、そんなことを言っていた。  何年も仲人として活躍していたという噂は聞いたことがあるが、それが真実かどうかは知らない。  千也さんは今年で三年、毎月一回我が社で『結婚講座』を開いてくれている。  結婚したい男女の出逢いをサポートしている我が社、『ハッピーマリッジ』の創業は五年前だ。結婚相談所として事業登録がされている。今は総合ビルの3フロアを借りて運営している。千也さんがやってくる第四会議室は3階にある一番小さな会議室だ。  登録会員さんとの面談をするカウンセリング室に比べて、とても事務的でホワイトボードなんかもあるいわゆる普通の会議室だった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!