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ホワイトボードには、
『Aー相手を優先してついていく』
『Bー自分の行きたい方に一緒に連れて行く』
『Cー話し合ってどちらかに決める』
『Dーそれぞれが好きな方に行く』
と、四つの回答が並んだ。
少しだけざわついた。
「皆さん、ご意見がありそうね。どうぞ言ってちょうだい。自由に意見交換してね」
千也さんはにこりと笑ってそんな風に促した。
「Dはどうかなと思います。せっかく二人で休日なら二人で過ごしたいと思うから」
「でもせっかくの休みなら自分が行きたいところにも行きたいよね」
「両方行くのは無理かな」
「無理だよ、山と海だぜ」
いつの間にか新入社員たちは好きなように話し出していた。千也さんはやっぱりニコニコしながらそれを見ている。
「優先順位の問題だよね、『行きたいところ』と『一緒にいること』のどちらを優先するか」
「行きたくないところに行くよりも『行かない』を選択させて」
「でも彼女が『行く』って言ったらどうするの? 一人で行けって言う?」
「どうぞどうぞって言うかな」
「それならDじゃない。だって一人で行かせるなら、自分も一人で行けばいい」
「だからそれだとパートナーの意味がないよ」
私も最初に受けたこの6回目の講座で、当時の参加者と喧喧囂囂したことを思い出していた。そしてそれが当たり前だってことをもう知っている。だってみんな違うんだから。
にこにこと笑いながら、みんなの話を聞いている千也さんはとても嬉しそうだ。そしてちょっと荒れそうになってきたときに、パンと手を叩いた。
「はい、ご静粛に」
そう言った後にパチパチと拍手をする。
「皆さん、いろんなご意見ありがとう。今、皆さんが言ったことごと、全部正解です。誰も間違えていません。だってみんな違うんだから。でもね、私は三年ここで同じ質問をしているけれど出てきたパターンはこれくらいです」
千也さんが話し始めると、新入社員たちはホワイトボードの前に立った小さな千也さんの方を向いた。
「たくさんの離婚理由に『価値観の相違』という言葉が使われます。それって具体的にどういうことかわかりづらいわよね。つまりここにあるAからD、皆さんがご自身のパートナーを選ぶなら自分のタイプをちゃんと知って、お相手のタイプを知れば良いのですが、いかんせん皆さんのお仕事は出逢いをお手伝いするカウンセラーです。なのでAからDのどのタイプの会員さんにも、お似合いの『価値観が相違しないお相手』を見極めなければいけないわよね? せっかく出逢いのお手伝いをさせていただくのですもの、自分がお手伝いした会員さんには未来もずっと幸せであってほしいでしょ?」
新入社員たちは今、価値観の相違ってなんだかフワフワした言葉を、ちゃんと見た気がしているに違いないと思う。
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