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「私だって…お母さんに会いたいっ」
唇を噛み締めた凛花の目から、ほろりと涙が零れる。
その自然な演技に、こっちまでもらい泣きしてしまいそうだ。
けれど、私が目を潤ませるのには他に理由があった。
「いい芝居だ」
隣で何度も頷く秀人ともに、凛花の撮影現場を訪れていたんだ。
武藤と引き合わせてから、あの子を覆っていた膜のようなものが取れた気がする。
自らまた女優の仕事がやりたいと志願し、オーディションから勝ち取った役を見事に演じ切っていた。
初めこそあれこれと野次を飛ばされたものの、マイナスイメージを払拭するに値する演技で、伸び伸びと輝きを増していく。
「ねぇ、どうだった?」と駆け寄ってくるが、凛花は師匠と崇める秀人のほうばかり見ている。
「最後のセリフは、もう少し間をもたせたほうがいい」
さっきまではべた褒めしてたのにと、心の中で笑ってしまう。
「はい、差し入れ持ってきたから」
凛花の分だけじゃなく、たくさんのクラブサンドとフルーツサンドを持参してきた。
現場を盛り上げるのも、ひとえにこの姪っ子のため。
親馬鹿と言われようが、私は凛花と愛子のことを心から愛している。
「そのうち、また俺とも共演する日が来るな」
「私、負けないから!」
二人が演技対決をする日は、そう遠くはないだろう。
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