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志保を見据えたまま、姉妹の距離が迫っていく。
妹は気圧されたように顔を強張らせ、今から死のうとしている私よりも怯えて見えた。
これが、母親としての覚悟の違いか。
愛子が助かるなら、これからも笑顔で過ごせるのなら、命など惜しくはない。
「景子っ!」
秀人に名を呼ばれたが、振り返らなかった。
父親さえいてくれるのなら、あの子は幸せに育つだろう。
武藤も良いパパとして、凛花といい関係を築くはず。
もう少し、あと少し手を伸ばせば届くところに愛子が──。
「や、やっぱりやめたわ!」
「…志保?」
「それ以上、近づかないで!あんたが死んでも、何も解決しない。私は自分より不幸でいて欲しいの!自分のほうが不幸なんて耐えられないのよ!」
未だに『どちらが不幸なのか』ということに拘る志保は、分かっているんだ。
もう、自分が上に立つことはできないと。
決して超えてはいけない一線を踏み、すでに超えてしまっているのだと気づいているからこそ、自暴自棄になっている。
「それには、生きててもらわないとね」
薄っすらと微笑む志保の目は、赤く血走っていた。
「や、やめてっ」
「生きて、大切なものを失くしてもらうのが一番なの。そうすれば、不幸な私よりももっと不幸になるでしょ?もっともっともっと不幸にっ!」
嫌がる愛子を階段へと突き飛ばす──。
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