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芝生が広がる公園には、多くの子供たちが遊んでいた。その中に、娘と拓也くんの姿があった。サッカーボールを蹴っては、走り回り、楽しそうだった。この五日間で、二人はすっかり仲良しになっていた。
ベンチに座り、ぼんやりとその様子を見ていると、色んな思いが頭に浮かぶ。五日経っても、夫から連絡は来ていなかった。メールの一つくらい送ってきてもいいのではないか。
きっと夫は、生活力もないだろうからすぐに音をあげるだろう、その考えは的外れだったようだ。元々が器用で、料理や裁縫も私より上手だったことを思い出す。
もしかして私がいない方が良いのではないか。何回もその考えが頭をよぎる。謝罪したって許さない、最初はそう思っていたのが、なんでも良いから連絡してほしい、そんな気持ちに変わっていた。離婚。その二文字が浮かび、呼吸が苦しくなる。もしかして、夫は私と離れたかったのではないか。そうであれば、こうやって私が出て行ったのは好都合ではないか。そうであるなら、連絡してこないのも納得できる。そして、この先には、破滅の道が待っているのではないか。
「ふう、疲れた」
そう言って、娘が私の横に座る。
「あれ、拓也くんは?」
「今はトイレに行っているよ」
「そっか」
私はホッとする。ずっと考え事をしていて、二人の様子もまともに見ていなかった。もしも拓也くんをケガさせたりしたら、姉に怒られてしまう。
「美波は、家に帰りたい?」
私の言葉に、彼女は目をぱちくりする。
「ううん」
首をぶるぶると左右に振る。その回答に、少しだけ安心する。彼女は、お父さんに会いたくて、もしかしたら帰りたいと言い出すかもしれない、そう思っていた。
「家に帰るのは、いつでも良いよ」
私は、沈んでいた視線を上げる。
「お母さんの気持ちが落ち着くまで、ここにいたら良いからね」
笑顔で話す彼女の顔を見て、私は言葉を失った。
「お待たせ。再開しよう」
トイレから帰ってきた拓也くんに、娘は「うん」と立ち上がり、またサッカーを始めた。
私はその場から動けず、夕焼け空をじっと見つめていた。
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