番外編 最高級のときめき

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四年生の先輩カップルとダブルデート。すごく緊張する。だって僕はとても大役を仰せつかったんだ。 まず柊宇がスマホでフラッシュモブの動画を出して皆んなで見るように仕向ける、そして僕が「いいね!すごいね!」なんて言ってみせるんだ。 その時の彼女さんの反応を柊宇が見て、フラッシュモブで行けるか判断するらしい。 だめだったら、また他の案を考え直しみたい…… 僕はフラッシュモブがいいと思うだけどなぁ。 先輩カップルと柊宇と僕とで動画に見入った。 「いいね!すごいね!」って言わなきゃだめなのに、感動して僕は泣いてしまった、恥ずかしい。 「可愛いわね」 先輩の彼女さんが微笑ましい顔で僕に言ってくれた。 どうやらフラッシュモブも嫌いじゃない、というかむしろ僕と同じで好きみたいだ、よかった、フラッシュモブで決まりだ。 それからは準備に大忙しだった。 実行日は一ヶ月後、大きな規模ではないから割と時間に余裕はあるようだったけれど、皆んな色んなことをしながらの準備だから、結構大変、でも楽しい。 自分たちも躍ると言う。 …… 僕はとてもダンスなんて苦手で、その話しになった時は俯いてしまった。佐々木くんなんか、どじょうすくいでもしてるんじゃないかって感じだけど楽しんで踊ってる、それが大事なんだと思わせてもくれた。 ダンスは上手じゃなくていいからと、各々の友達を数人連れてくると総勢二十人くらいにもなっていた。 でも、僕はやっぱり…… 。 不安そうな僕の顔を柊宇が見つけてくれてそばに来る。 「唯生はさ、先輩の彼女さんと一緒にいてよ、その日またダブルデートすることにしてあるから」 「…… いいの? 」 ダンスをしなくていいと言われてホッとした反面、なんだか勝手を言ってるみたいな気もした。 「この前みたいに「すごいですね!」とか彼女さんに言って、サクラをやって欲しいんだよ、盛り上げるために」 「…… うん、わかった」 そう言ってもらえて安心した。 柊宇はもちろんのこと、西園寺さんも双子の雪野さん兄妹も白鳥さんも、なんてダンスが上手なこと。天は四物も五物も与えたんだなって思う。 そんな皆んなのダンスの練習を見ているだけで僕は胸を躍らせ、当日を迎えた。 場所はS大のオープンスペース、ちゃんと大学の許可は取ったらしい。 芝生の横にはテラス席がある。僕と先輩カップルがそこに座り、柊宇が来るのを待つ、という設定。 ドキドキして前の晩から眠れなかった情けない僕。 先輩、なんて言うのかな? プロポーズの言葉をなんて言うのかはもちろん聞いていない、僕の目の前で行われるんだ、ああ、どうしようって僕が倒れそうだった。 曲は柊宇が選んで先輩に伺っていた。 ブルーノ・マーズの『Marry・You』 先輩も気に入り、この曲で決定。初めて聴いたけどすごく可愛い曲、僕だって気に入った。 最初は双子の和紀さんと和花さんがカップルを装い、テラス席の前を通りすぎる時に音楽が流れ出すと始まる。 西園寺さんも佐々木くんも、他の友達も出てきて壮大になる。 そして柊宇も出てきてかっこいい。なんてカッコいいんだ。 「あら、どうしたのかしら真伏くん、遅れてきたかと思ったら躍り出しちゃったわね」 なんて先輩の彼女さんが言う。 はっ! 「すごいですね」って言わなきゃ…… 僕、すっかり観客になっちゃってたよ。 「す、すご、すごいですね」 って、振り向いたら、なんと先輩カップルも立ち上がって躍り出した。 え? どうしたの? ポカンとしている僕。 そのうちに柊宇が皆んなの前に出て、先頭立ってダンスしだした。 え? どうしたの? 僕の頭の中はそんな疑問しか浮かばない。 そして僕に向かってダンスしている。 え? え? 皆んなも僕を見ている、満面の笑みでダンスしながら。 僕に? 柊宇が僕にサプライズ? なんの? 少し分かったような気がしたけど、驚きの方がいっぱいで思考が追いつかない。 音楽が終わると皆んなが見守るようにして後ろでしゃがみ、柊宇が僕の前に片膝をついた。 それでもまだポカンとしている僕。 「唯生、驚いただろう? ごめんな。本当は俺と唯生が主役」   笑いながら言っているけど、柊宇が少し緊張しているのが分かって、僕もつられて緊張してきた。 「幼稚園のもも組からずっと、ずっと唯生と一緒だった。唯生がずっと好きだった。唯生以外に考えられなかった。高校三年で長いこと離れて、それで俺たちの想いは強く結ばれたし、この世の中で一番大事なのは唯生って本当に思ってる。だから、これからもずっと、ずっと一緒にいよう。結婚してください」 そう言ってチノパンのポケットから指輪のケースを出し、蓋を開けて僕に向けた。 「…………… 」 最後は「してください」って、柊宇からそんなふうに言われたことあったかな? って思い返しながら涙がこぼれて止まらない。 「…… しゅ、柊宇…… ず、ずるいよ…… こ、こんなの…… 」 こんなにたくさんの前で僕は大泣きをしてしまって、本当に恥ずかしいじゃない。 「唯生? …… 返事、聞かせてくれないか? 」 不安気な柊宇の声、返事なんて決まってるじゃない。 「よ、よろしくお願いしま、す」 ヒックヒックとしゃくりあげながら、それでも僕はしっかりと柊宇に応えた。 後ろで見守っていた人たちが一斉に立ち上がって、歓声をあげ、僕たちに拍手をくれる。 その場にいた知らない人たちからもたくさんの拍手をもらって、もう、この上ない幸せ。 「真伏と別れたら、俺と付き合おうぜ」 って、笑いながら寄ってきた西園寺くんを思い切り突き飛ばしてる柊宇。 やめなよ、って泣き笑いでいう僕を抱きしめて耳元で柊宇が囁く。 「俺、めっちゃ幸せ」 僕だってすっごい幸せだよ。 どうしてこうも、柊宇は僕にときめきをくれるの? 最高級のときめきだよ。 今度こそ、 ── fin ──  続編のリクエストありがとうございました! ブルーノ・マーズの『Marry・You』 大好きな曲です。 機会がありましたら是非聴いてみてください!
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