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とても困るんだけど
「や〜い、や〜い、泣きむし唯生〜!明日から帽子かぶってこれないなー!」
「おねがいだから返してよ…… 黄色い帽子かぶって行かないと学校に行けないもん」
僕の帽子を高く上げるから、小さな僕は届かなくて、ぴょんぴょんと跳ねた。
小学校一年生、僕はよくこんなふうにいじめられていた。
おどおどとしていて、小柄な僕を揶揄うのが、彼らには楽しいことのようだった。
「なにやってんだよーーっ!!」
「やっべっ!真伏くんだ、早くにげようぜっ!」
なにやってんだと、すごい勢いで走ってきたのは真伏柊宇、僕と同じ幼稚園で組も同じ『ももぐみ』と『ばらぐみ』だった。
そして小学校も同じ、柊宇と同じ学校で本当に良かったと嬉しかった僕。
その前なんか靴を隠されてしまって、昇降口で一生懸命探す柊宇の横で、僕は泣いていただけ。
「あった!あったぞ、唯生っ!」
「あ、ありが…… と、う…… 」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、僕はお礼を言った。
柊宇は、いつも僕を助けてくれた。
「こんど唯生になんかしてみろ!ただじゃおかないからなーーーっ!」
いじめっ子たちに大きな声で柊宇が叫んだ。
「どうして先に帰っちゃうんだよ、だめだよ」
「だって、柊宇くんとはクラスがちがうもん、さようならをしたら帰らないといけないんだよ」
「今度は唯生と同じクラスにしてもらうように、先生に俺、頼むから」
「そんなの、むりに決まってるじゃない」
そんなことを話しながら、僕は柊宇と帰り道を歩いた。
それでも不思議と、次のクラス替えからはずっと柊宇と一緒だった。
授業の終わりのチャイムが鳴ると、まだ先生が話していても構わずに教室から飛び出して僕のクラスにやってくる柊宇。
「真伏くん、先生まだお話ししてますよ」
なんて言ったって、
「授業の時間は決まっているんだから、その時間内で終わらせてもらわないと困ります。休み時間には、私のやりたいことがありますので」
これは小学校一年生の時に言った、柊宇の言葉。
やりたいこととは、僕と話しをすること、だったんだけどね。
あとから聞いた話し、もう同じクラスにするしかないと学校側は諦めたらしい。
でも僕はとっても助かった。
だって、いつも柊宇がそばにいるから誰も僕をいじめない。
あの頃僕は、なにも怖くなかったもの。
柊宇はものすごく頭が良くて、絶対に有名私立中学に行くんだと思っていた。
家もお金持ちだし、小学校を卒業したらお別れなんだと思い淋しかった。
「中学受験、しないの? 」
「しないよ」
「…… どうして? 柊宇の家はお金持ちだし、柊宇は頭がいいし、絶対にT大付属中学とかに行くと思ってた」
T大付属中学とは、日本でも屈指の有名私立中学。そこに入れるほど柊宇は頭が良い。
「だって、唯生と離れちゃうじゃん」
「…… え? それが理由なの? 」
「他になんの理由があるんだよ 」
不思議そうに、怒ったような顔で言われて、僕だって困った。
僕と離れてしまうから中学受験をしないって、そんな話しあるのかと僕だって少し頬が膨らむ。
「…… ねぇ、柊宇のお父さんとお母さんはT大付属に行けって言わないの? 」
「言ってるけど」
「…… まさかさ、僕と離れたくないから受験しないとか、言ってないよね? 」
「言ってるけど」
…… 僕のせいになっちゃうじゃん、やめてよ、不貞腐れた顔になる。
僕が柊宇の人生を変えてしまっているようでモヤモヤして、この頃には背丈も伸びた柊宇の顔を恨めしげに見上げた。
「唯生と同じ中学じゃなきゃ、俺は行かないって言ったから」
…… なんでなの? とても困るんだけど。
ランドセルの肩紐をギュッと掴んだ。
柊宇と離れないで、まだ一緒に過ごせるのかと思うと嬉しかったけど、でもやっぱり、ものすごく複雑な気持ちで眉をひそめる。
でも、そんなのは中学進学だけの話しじゃなくて、僕はほとほと困り果てていた。
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