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小学校から申し送りがあったのか、中学校でも三年間ずっと柊宇とは同じクラスだった。
高校に入って、もう何年振りになるだろうくらいにクラスが分かれてしまい、柊宇が僕への、良く言えば見守り、悪く言えば監視が強くなったのは確か。
小学生の時のように、先生が話している途中でも教室から飛び出して僕のクラスに来るということはさすがになくなったけれど、昼休みは必ず僕と二人、フリースペースでお昼ご飯を一緒に食べていた。
「唯生、今日はパンなの? 」
「うん、お母さん最近パートが忙しくて疲れてるみたいなんだ、だから、コンビニで買ってきた」
朝は駅で待ち合わせて、一緒に学校に行っている。
駅に着く前に買ってきていた。
「柊宇のお弁当はいつも美味しそうだね」
中学までは給食だった。
柊宇が持ってくるお弁当を、毎日美味しそうだなって思って見ていた。
「そうか? じゃあ、明日は唯生の分も作ってくるから!そしたら唯生のお母さんだって安心だろ? 」
「そんなのっ!いいよっ!柊宇のお母さんに悪いよっ!」
「え? 弁当、俺、自分で作ってるから」
「…… え?」
柊宇が自分で作ってるの? 驚いて目が真ん丸になる。
「柊宇が、作ってるの? 」
「うん、うちの母親も忙しいみたいだからさ、それに自分で作った方が食べたいもの入れられるじゃん」
柊宇の家のお母さんが忙しいのは、うちの母親の忙しさとは違った。
両親でイベント会社を経営していたが、柊宇が公立中学に通い始めてから子育ての講演会を開くようになり、それが大人気のようで全国各地を飛び回っているらしい。
「『個性を生かす子育て法』なんて講演会しちゃってさ、あんだけヒステリックになって俺の公立中学行きを猛反対して絶望してたくせに、今じゃ、ああだよ、俺に感謝してくれよ、だよ」
「…… やっぱり、すごい反対されたんでしょう? 僕と離れたくないからだって、両親に話したって言ってたよね」
僕のせい、みたいになってたから、とても気が重かった。
柊宇には双子のお兄さんがいて、お兄さんたちも優秀だけれどT大付属中には行けなかったから、入れるはずの柊宇が行かなかったのは、相当がっかりしたのだろうって思っていた。
「あの時はな、でも高校なんかまた講演会のネタができるって喜んでこの高校の受験に賛成してたよ、転んでもただでは起きないって、母親みたいなことを言うんだろうな。中学の先生からは進学校を受験した方がいいって、毎日のように説得されてたけどな」
なんか、どんな話しをされても僕は居心地が悪い。
「な、だから、明日から唯生の分も弁当、作ってくるからな!」
それはそれは嬉しそうな顔で僕を見る。
「…… いいよ、そんなの」
「遠慮すんなよっ!」
「…… 遠慮、じゃ、ないよ…… 」
高校での初めての定期テストでは、当然トップの柊宇だけど、全教科ほぼ満点で入学当初以上に注目を集めてしまって、僕は少しずつ柊宇のそばにいることが落ち着かなくなってきていた。
「ねぇ、私たちも一緒にお昼食べていい? 」
だから、こんなふうに寄ってくる女子だっていた。
皆んな、柊宇目当て。
「だめ」
「え〜、真伏くん、そんな即答しないでよ〜」
「俺と唯生の楽しみの時間を邪魔しないでくれよ」
…… 楽しみじゃない、ってわけじゃないけど、僕は柊宇が思っているほどには、そんなに楽しみにしているわけではなかった。ごく普通の日常。
「いいじゃない、柊宇、一緒に食べようよ」
女子に気を遣って僕がそう言うと、ものすごい目で柊宇に睨まれた。
「…… 唯生」
「…… はい」
思わずきちんと返事をしてしまうほどの、怖い目つき。
「ねっ!向井田くんもそう言ってることだし、いいよね!」
と、柊宇の目つきを恐れることなく椅子を寄せてくる女子、怖いもの知らずだな、って感心した。
一人が僕の隣りに椅子を持ってきて座ろうとしたから、柊宇が勢いよく立ち上がった。
「唯生の隣りに座るなっ!!」
雑談やらで賑やかに楽しく昼食をとっていた人たちが一斉に黙り込み、フリースペースがしんとなったと同時に、視線が全部こちらに集まる。
ああ、僕はどうすればいいんだろう。
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