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西園寺さんのこともあって、僕は柊宇の手伝いは辞退しようかと思っている。
「どうして? いやなの? 」
柊宇が悲しそうな顔をした。
西園寺さんのことは平気なのかな? って不思議に思う。
「…… だってさ、えっと…… 」
「西園寺のこと? 」
すぐに察した柊宇が眉をしかめて僕を見た。
「また、あんなふうになったら、他の皆んなが困ると思うもん」
「別に皆んな困ってなかったじゃん。唯生に対する西園寺の態度は腹立つけど、これから始めていく上で、西園寺も唯生も、必要なんだよ」
「僕は別に…… 」
いてもいなくても一緒だよ、って言おうとしたけど、そんなのひどく卑屈だ、よくないと思い言葉を飲み込んだ。
「それにまだまだこれからで、一歩…… いやよくて半歩踏み出せたところなんだ。もちろん今はまだ自分のバイト優先で、軌道に乗ったら、手を貸して欲しい」
真剣な顔で、この柊宇にお願いされてこの上ない光栄。気を取り直して柊宇のいう通りにすることにした。
でもね…… 。
「唯生、今日の服も可愛いねぇ 」
西園寺さんが僕を見つけるなり、駆け寄ってきて肩を撫でる。
「俺が見立てた服だから。それに唯生って呼ぶなって何万回言わせんだよ」
瞬時に柊宇も駆け寄ってくると、西園寺さんの手を思い切り払い僕と西園寺さんの間に立つ。
西園寺さんも柊宇と同じくらいの背丈があって、睨みつけている柊宇の顔が近い。二人チュウでもしちゃうんじゃないかってくらいだ。
「全くもう、飽きないわね二人、向井田くんが来る度にそんなことして」
白鳥さんが呆れ果ててため息まじりに言う。
S大近くの喫茶店で皆んなと顔を合わせてから、一ヶ月は経とうとしていた。
事前申し込みをすれば日曜祝日なんかは教室を借りられるようで、借りられた日はS大の教室で打ち合わせをしている。
僕も佐々木くんもS大に足を運び、ちょっとS大生になった気分になって二人してテンションが上がっていたりした。
「俺たち最初の仕事…… って言っても無償だけどな、名前を広めるいい機会だ、気合い入れようぜ」
二卵性の双子の兄の方、和紀さんが皆んなに熱の入った視線を流した。
「四年生で就職も決まった先輩が、同じS大生の彼女にプロポーズしたいって、真伏が相談受けたらしい」
えっ!? プロポーズ!? 大学生で!?
はぁ〜、僕のドキドキが止まらなくて、目を真ん丸く見開いて和紀さんと柊宇を交互に見た。
柊宇が立ち上げようとしているイベント会社は、フェスやパーティーなどを請け負う会社を目指しているらしい。柊宇の両親のイベント会社は主にセミナーや講演会が中心、めちゃくちゃ楽しいことをやりたいって柊宇が言っていた、こういうことかと、僕もワクワクしてくる。
「で、色々案が出たけど、俺のいち押しは『フラッシュモブ』」
柊宇がそう言うと、皆が揃って頷いた。皆んなも同じ意見みたいだ。
どうしよう、僕、フラッシュモブって大好きなんだ。よく動画で見て、知らない人のなのに感動して泣いちゃったりしてるんだ、ああ、うきうきして心が躍るよ。
「でも、正直言って日本では割と厳しい見方をする人もいる。「大嫌い」だとか「気持ち悪い」だとかの声も聞こえる。俺的には、本人たちが幸せならそれでいいだろうって思う。その場にいる知らない周りの人たちには迷惑をかけない程度の規模でやろうと思う」
「俺も真伏に賛成」
西園寺さんが右手をあげてニヤリと笑った。
「で、一番大事なのは彼女さんがフラッシュモブが大丈夫かどうか、ってところだ」
「嫌いだったら最悪だよね、どうやって確認するの? 」
柊宇の話しに和花さんが心配そうな顔をして訊いている。
「んー、今度先輩カップルと俺たちカップルでダブルデートして、何気なくフラッシュモブの動画を見せてみて反応みようかなって思ってる」
え? 僕も行くの? なんか大役じゃない? すごいドキドキしちゃうよ。
「じゃ、俺も行く」
西園寺さんがすかさず言うと、柊宇が
「来なくていいに決まってるだろう」
じろりと睨んで、白鳥さんがまた
「飽きないわね、二人」
と半笑いしていた。
それにしても僕…… 本当にわくわくするし、人の幸せに立ち会えるって、すごい素晴らしいことだなって思う。
こういうことをやりたいって思う柊宇を、ますます尊敬した。
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