②潰れたスイカの果肉は赤い

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②潰れたスイカの果肉は赤い

⚫︎アズマ:続いての生首作品は、こちらです。 潰れたスイカの果肉は赤い https://estar.jp/novels/26012674 55f06c5d-855d-4182-8574-77831f22b6da ⚫︎アズマ:登場人物の恨みというか負の感情を、非常に静かに、非常に冷たい描写で書かれており、それでいてゾッとする話に仕上げられるのは流石だなと思います。作品を書く時に、登場人物の感情の機微について、意識していることはありますか? ⚪︎待井さん:まずは、これを生首作品に含めていただいてありがとうございます。 「今ここにあるのは、首かもしれないし首じゃないかもしれない」そんな疑惑だけで進むお話です。もし首だったとしてもたぶん胴体つきなので、生首の定義からはずれてしまってますね💦  あ、でも最後に母親が食べてるスイカは概念父親の生首なのでいいのかな。  この作品の主人公は小学5年生なのですが、優等生でいいこちゃんでちょっと冷めている、という感じにしました。  感情の機微について……。難しい……。  いつも四苦八苦しています。  どう工夫を凝らせば良いのか悩んでばかりなので、意識する以前の問題かもしれません。 ⚫︎アズマ:感情の機微について、インタビューをして思ったのは、待井さんはご自身の感情に影響されない作家さんなのかなと感じました。  私は小説を書く時は、自分の中で生まれた感情を元に物語を思い描くことが多いです。ただ、それだと、感情にストーリーやキャラクターが大きく影響を受ける(もしくは振り回される)ことがあります。その点、待井さんは、思い描いた物語の構想に対して、感情を交えずに突き進むことができる作家さんなのかなと思います。  生首などの道具を登場させると、どうしても、怖いとか痛いとかそういった感情や感覚が頭をよぎります。しかし、待井さんの作品は、そういった描写などが極端に少ないです。  意図してか意図せずかは分かりませんが、そういった部分が、待井さんの独特な雰囲気の作品を生み出すのではないかと考えます。 ⚪︎待井さん:一時期、恨みや怒りなどの感情を抱いている主人公を続けて書いた時期があり、それはもういいかな、と激しい感情を抱く登場人物から少し離れることにしました。 ⚫︎アズマ:なるほど。  続いての質問です。「生首転がし」は最初から最後まで得体の知れない怖さが描かれていましたが、こちらは真相はどうなのかという点を最後まで引っ張り、読者を作品にのめり込ませる牽引力にしているのかなと思います。  読者をどうやって物語の世界に引き込むか、心がけていることはありますか? ⚪︎待井さん:「何かひとつでもいいから、ひっかかるものを」ということを心がけています。独特な「何か」があってほしいな、と。 「この話の雰囲気や空気感、何だか奇妙だな」とか「登場人物の関係性がおかしいな」とか「文章のリズムや言葉のテンポが小気味良いな(逆にリズムが変に狂っているな)」と感じていただけるようなものを書きたいです。  その「引っ掛かり」が気になって、読み進める気持ちになっていただけたらいいなと思っています。  小さくても良いから何らかのインパクトが欲しいんです。  そしてそのインパクト部分によって、一言で物語の内容が説明できるようにと考えています。 「生首転がし」なら「子どもたちが父親の生首でサッカーする話」、「潰れたスイカの果肉は赤い」なら「スイカを父親の首に見立てて殴殺させられる話」といった具合です。 ⚫︎アズマ:引っかかり、という考えは、物語を作る上では非常に大事ですね。勉強になります。  それではこの作品について、最後の質問です。私はハッピーエンドテラーでして、物語の結末ははっきりと明確に、ということが多いです。ただ、待井さんの作品は、結末をぼやかしているというか、はっきりさせずに、不気味さをより増幅させているように思います。  物語のラストで何かこだわりなどはありますか? ⚪︎待井さん:ホラー系の物語の場合、「このせいでこうなった」とか「この人物が相手を恨んでいる」みたいな因果がはっきりしているものよりも、理由がいまいちわからない、理不尽であったり不可解であったりする不安感があるほうが好きだな、という個人的な好みがあらわれているのかもしれません。 「なぜこうなったのかわからない」「これからどうなるのかわからない」という不確かな悪夢のような話を無意識に求めて、そういうラストにしてしまっているのかもしれません。  ファンタジーや恋愛ものだと、どんなラストにするかはまた変わってきますが。
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