次は勘解由小路消失

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次は勘解由小路消失

 民自党幹事長の失踪事件に発展した、この援交騒動を越え、勘解由小路は、事件に完全に興味を失ってしまった。  怪奇事件といえど、起きたのはただの犯罪者の失踪にすぎず、勘解由小路の興味を刺激しないようだった。  今後も起こり得るのか。犯罪者を消しいているのは、やはり犯罪者だった。  彼等を守る意義が、今は薄れかけていた。法の遵法者としては、それは違うのだろうが、例えば、悪意をもって人を空間に監禁するような行為の、何が刑法に抵触するのだろう。  だが、勘解由小路は確かに不可解だった。小鳥遊山椒を、常に側に置いていた。  ――本当に、勘解由小路は、この事件から、興味を失ったのか?  はて?何かを、島原は忘れているような気がしていた。  旧西ノ森邸の、勘解由小路の寝室の闇の中で、襦袢を羽織る衣擦れの音が聞こえていた。  明治期のアンティークなベッドの上で、小鳥遊山椒は、裸体を晒して座っていた。  ついさっきまで、激しいセックスをしていた所為で、小鳥遊の息は荒く、大きな双丘が、ふるふると時折震えていた。  背後から、勘解由小路の重みを感じた。  彼からしては健常な右腕が、器用に小鳥遊の右胸を弄び、左の肩甲骨に、勘解由小路の唇が触れた。 「2徹目突入だ。俺はまだいけるぞ?」 「寝ねえでまた?流石に鬱陶しいでゲスが、まあ受け入れちまえば、悪くはねえでゲス」  小鳥遊は、寝るか帰るかしようと思っていた。  更に、下の位置に勘解由小路の指が伸びた。 「改めて、結構濃いんだな?」 「ん♡え、縁がねえもんで♡アイヤ♡」 息も絶え絶えになった小鳥遊の耳に、囁く声があった。 「なあ。小鳥遊。俺は、お前がしていることに特に興味がない。ロクでもない人間は、ロクでもない死に方しか出来ん」  腰を浮かされて、大きいものが侵入してきていた。小鳥遊のそこは、侵入したものの熱さと、それが吐き出すものを、一切逃さないよう、きゅーっと、勘解由小路を締め付けていた。 「あん♡とても、公務員の台詞たあ、あ♡思えねえでゲス♡」  首が丸まっていく。激しい快楽の奔流を受けて。  勘解由小路に応えるように、小鳥遊のそこは、艶めかしく蠕動を繰り返していた。 「そ♡それで」  思わず、舌先が口から伸びてしまっていた。  強引に、奪うように、舌が絡み合う感触があった。  影新聞。激しく腰を打ち付けながら、背中の正中に舌を這わせて言った。 「ネットを探れば簡単だった。影新聞というのは、いわゆるオカルト系のサイトだった。ただ、そこまでアクセス数は稼げていない。アフィ広告も大した額にはならん。だからこそ気になるのは、お前の動機だ。そんなに珍しかったのか?珍しいおもちゃを手に入れて、はしゃぐガキそのものだ。まあ、お前が姉を殺させた時も、臓器ブローカーをやってた両親を、直接手にかけた時も、お前はそうやって、ヘラヘラ笑ってただろう。まさに、嗤う新聞記者だ。お前、とっくにそうなってたろう。姉からの虐待か?あきらかにネグレクトされた仕返しか?犯罪者を消したのもそうだ。情けないしくじりで死にゆく者を、そうやって嘲笑ってたんだな?戸籍もなく、存在すら許されない身の上から、お前は嫡子の地位を手に入れた。それでも、お前は益体もない影新聞にうつつを抜かすんだな。お前は、何を思う?」  ああああ。殺人鬼の奥に、まだ濃いものを吐き出していた。 「いやー。まあ、影新聞はアチキの生きた証でゲス。姉ちゃんは、まああの性格でゲスからな。方方から怒りを買ってたでゲス。両親だって、要するに似たようなもんでゲス。逆らう奴は中身抜くだけってだけで。あ。垂れて――。って、そこまで知ってて、アチキを孕ませる気でゲスか?出しながらそんな会話って。空気読めって、言われねえでゲスか?」 「あんまり覚えがない。お前の手口は既に知ってた。初めて、上から降ってきた時からな?仙道なら簡単だ。竹中の妹の時もだ。召鬼法だろう?霊的に防御してない人間なんぞ容易すぎるだろう。まあ先手打って正気に戻しといたんだが。秘された方法論。それを、俺はずっと探していた。川藤を真っ二つにした時にピンときた。つまらん撹乱で、絵の具を出した時にな。山河社禝図を生み出す機械。そう。名付けるなら、山河社禝機だ。お前が鞄に入れてあったアンティークカメラだ。妹に持たせただろう?塩尻を消した後で、カメラを符に戻していた。そう。実は、全て俺の手の内にあるんだ。被疑者も凶器も何もかもな?最後の質問だ。どうやったら、あれから出られる?真っ先に、お前を捕まえに行った僕が戻ってこない。他の何より大事な、俺の職業意識って奴が、そいつの保護でもある。だからまあ、そいつが消えてから、一切お前から目を離していなかった」 「あー失敗。妹に撮影させたのは、これもまあ、アチキの職業意識って奴でゲス。まさかそこまで把握してるたあ、お釈迦さんでも知らぬが仏で」 「焼死事件のネタだって割れている。幽閉したあと、空間ごと焼くんだろう?映り込んだネガを、ポジにする必要がある。俺が張り付いていた理由がそれだ。どうやっても、俺の(しもべ)を焼く時間はなかった。で、どうすれば出られる?」 ケケ。ケケケ。小鳥遊の、乾燥した笑い声が響いた。  確かに、性格のおよそ破綻しきった、サイコを思わせた。 「ケケケ。そりゃあ無理でゲス。一旦入っちまったが最後、ポジに移して焼かねえ限りは出られねえでゲス。あそこは、写真という隣接しているようで、永遠に交わらねえ切り取られた過去なんでゲス。絶対に抜け出せねえでゲス。異様な霊気が追ってきたからつい撮っちまったでゲスが、残念ながら旦那の(しもべ)とやらは、諦めるしかねえでゲス」  何ら、心の痛む様子のない小鳥遊の声がした。罪悪感など、欠片もない様子だった。 「ていうか、出したまんま続けねえでくだせえや。グッチュグッチュいわれてるでゲス」 「あーそうかー。じゃあ、その感情のない笑顔を向こうに向けろよ。はい。チーズ」  は?  小鳥遊と勘解由小路の視線の先に、山河社禝機を向けた、黒子装束の姿があった。  パチリ。シャッター音がして、やりくさってた馬鹿2人の姿は、跡形もなく消失した。  そこに、島原が現れた。 「まさか、身内に真犯人がいたとは。やはり悪魔か。勘解由小路を消したな?」  アボリジニの精霊面は、懸命に首を振っていた。
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