方法論高速特定

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方法論高速特定

 機捜や、鑑識が慌ただしく動き回っていた。  遺体が存在しない以上、殺人事件とは断定されなかったが、かかる事件の連続性を加味し、島原は帳場を立てるよう、強く要請していた。  マンションを上から一望出来る場所を陣取り、勘解由小路は考えていた。 「この手の事件においては、その方法論が秘されているもんだ。突然消えた遺体の謎。それは、とある事象を示している。つまり、奴はここに、ロビーが俯瞰出来るここにいたことが解る」 「ここで、犯行が行われたというのか?被害者の体を、真っ二つに両断したと?目立った痕跡は何一つないぞ」 「いや、人体消失のタネは割れた。広い空間に人が存在する時、それは発動する。空間を切り取り、人を中に幽閉する。山河社禝図(さんがしゃしょくず)だ。川籐の体は、その領域から外れた。だから、体の半分がだけが持っていかれた。だがおかしいのは、普通の社禝図ではないことだ。本来は、絵画に描き込むことで対象を幽閉する。さながらドリアン・グレイの肖像のように。本来的にそいつは犯罪者ではない。しかし、川籐を探る程度の捜査能力を有している。しかも、この程度のことを推察する俺のような人間がいるということも知っているようだ。ってことはだ。この手すりにぺたりと走った絵筆の痕跡はフェイクだ。故に、山河社禝図の背後には、絵は関係がない。絵の具を追っていても、永遠にそいつにはたどり着けないからだ」  散漫な独り言は、勘解由小路が考えを纏める時の癖だった。  島原は、思わずゾクリとしていた。  確かに、こいつの知性には、一切の変容も後退もない。倒れる前と変わらない、頼もしい同期の姿があった。  だが、山河社禝図のような怪奇の存在は、島原どころではなく、誰であろうと受け入れ難いことだった。 「ハッキリしてるのは、犯人は愉快犯だ。街にうろつくゴロツキを、手当たり次第に襲っているだけだ。得たばっかりの方法論を試したくてウズウズしている馬鹿だ。別に何か思想的なものもない」 「山河社禝図か。確か封神演義だったな。女禍(じょか)の持つ宝貝(パオペイ)か。本当にあるのか?そんなものが」  空間宝貝山河社禝図。インパクトは十分にあったと記憶している。 「妲妃に紂王を籠絡しろと言っておきながら、出来者の紂王に引っ付いた妲妃に嫉妬した、ヒステリー持ちの人格障害者の持ち物だ。ろくなものではないのだけは間違いない。実はな?お前には言ってなかったが、川籐を見かけた直後、犯人がいそうなところに(しもべ)を放ったんだが、何と拉致されていた」  (しもべ)って。 「まさか、悪魔を奪われたというのか?どんな悪魔だ?」 「指揮官用ザク悪魔だただの。だから、服部さんを助け出さなきゃならんのだが。おかげで、犯人が男か女なのかも解らん。ところで、お前は誰だ?おい!出てこい!」  勘解由小路の言葉に反応したのか、木の上からぼたりと落ちてきた。  アイヤ!アイヨ!とか言っている。  落ちたカナブンかゴキブリのようなサマを曝け出しているのは、若い女のようだった。黒を基調にした、パンツルックのカジュアルスーツを纏っていた。 「何だ。何なんだ?お前は」  若干引いて、勘解由小路は言った。 「イテテ。いきなり呼ばれて驚いたでゲス」  ズレた、大きな丸メガネを直しながら言った。 「何だ、このおかっぱおっぱい眼鏡は。ゲスだと?何だお前は?」 「誰はばかることなくおっぱいワシワシしながら?!アチキはただの事件記者でゲス!小鳥遊山椒と呼んでくだせえ!」 「そうか。島原!とりあえず輪っぱだ!」  小鳥遊の胸を鷲掴みにしながら、馬鹿はそう言った。 「ぎえええええええええええ!酷えでゲス!国家権力の横暴でゲス!大体、まだ帳場すら立ってねえのに?!ならせめて手帳くらい見せてくだせえや!」 「我々は、警視庁の者だ。これは勘解由小路降魔という。勘解由小路、手帳くらい見せてやれ」 「あん?あれか?カップ麺の重しにしてたが、うっかりひっくり返して溢しちゃったんで、捨てた」 「馬鹿かお前は!!小鳥遊君と言ったね?奴はこれでも警察官だ」 「杖突きの刑事?まさか怪奇課?だとすりゃあ納得でゲス。異常な霊気を感じてたでゲス。ともあれ旦那!いつまで触ってるでゲスか?アチキの乳に注目が集まんのはいつものことでゲスが、当たり前にワシワシする奴は初めてでゲス」 「あん?悪い悪い。さっきからお前のおっぱいしか見ていないし、おっぱいがブルンブルンいってる音しか聞いてなかった。お前が何だって?島原、ちゃんと話聞いてやれって」 「お前こそ強制猥褻の現行犯をやめろ!小鳥遊君、身分証はお持ちかな?提示を願いたい。その名前だが、本名だろうか?」 「筆名(ペンネーム)に決まってるだろうが。みょうちくりんだがな。ブラジャーは割と普通のワコールだし」 「中に手え突っ込まれながら言われても」 「勘解由小路。彼女はどうだ?」 「あん?あー、別段おかしなことはないな。北京大学で道教学んでるな。うん、こいつは中国人だ。物凄い裕福な華僑の家に生まれた黒孩子(ヘイハイズ)だな。一人っ子政策が生んだ、戸籍のない闇っ子だ。家族関係は不全もいいところだ。利己的でヒステリーな姉の下で、暴力を受けながら育ったが、こいつが15か6の頃、姉が見るも無惨にレイプされ、塀の飾り突起に落とした首とか胴体刺して晒されて、一際酷い殺され方したおかげで嫡子に成り上がったんだが、あとを継ごうとせず遊んで暮らしていた。黒垓子を隠す為、横浜の馬車道で育ったが、未だに発音がおかしいのを、頭の悪そうな言葉使いで隠している。幼い頃から怪奇に触れてるな。太歳掘り当てたなこいつ。まあ解るのはこれくらいか。ああ。あとこいつの本名はシャンシャンだ。最近独り立ちした」 「シャンシャンの訳があるか!」  漫才のようなやり取りを、小鳥遊は見つめている。 「もうすっかり、ブラずらされて生乳触られまくってるでゲス。っつうか、アチキの素性丸裸にする知性に、子宮が疼いちまってるでゲス」  小鳥遊は、軽く発情していた。 「そうか。じゃあ俺の車に乗れよ。俺を取材するなら、俺に張り付いとけ。テムジンって車だ。多分モンゴル製の車だ」 「そんな訳があるか馬鹿者!それにリムジンだろうに!」 「あああ。まあいいや。是非ご一緒させてくだせえや」  トントン拍子で話が進み、リムジンが近くに停車した。 「よし。おかっぱおっぱい眼鏡、後ろに乗れ。島原、お前には居住性最高の車の助手席という、最高の貧乏籤を引かせてやる。専門学校の旅行で、女子がいっぱいのシェアリムジンで、金払ったのに助手席という仕打ちを受けた学生の如くファックを連呼して運転手に慰められてろ」 「・・・・射殺するぞ。しまいに」  島原の呟きは、誰にも聞こえなかった。  後部座席に陣取った勘解由小路は、小鳥遊の胸しかしか見ていなかったし、小鳥遊は小鳥遊で、勘解由小路の股間の辺りを撫でていた。  島原のイライラは、どこまでも高まっていた。 「お前、そこそこいいおっぱいしてるな。眼鏡外せって」 「駄目でヤンス。眼鏡外すと語尾とキャラ立ちに若干の誤差が出るでガス。あ♡そこ触っちゃ駄目だピョン♡助手席に追いやられた島原さんに、聞こえちゃうんだほおおおん」 「俺は気にしないでヤンス。ほら、スイッチ押せば音は聞こえない。そう言う風に出来ている」  モーター音を立てて、内窓が閉まった。  島原は、内窓を開けた。 「勘解由小路!状況を考えろ!捜査はどうなっている?!」 「ああまあ順調だ。俺の頭の中は、こいつのおっぱいで一杯だ。病後の俺は、永久機関に等しい。幾らでもほじくってやろう」  小鳥遊のシャツのボタンを、器用に片手で外しながらそう言った。
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