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第15話:倉庫内で……
ケープ・シェルのメインストリートから一本脇に入った道に、カダス商会の倉庫があり、そこにエスパダとグランディアは持ち込まれ、修理を行っていた。
カダス商会はバレンシアの父親のイサークが経営する商会のひとつであり、主にレリクスの売買を行っている関係からバレンシアに任されている店だった。
持ち込まれた当初はバレンシアの手下のガリクソンが整備の中心になろうとしていたが、あまりにも指摘が的確すぎたために、今やこの場を仕切っているのはアルフィンだった。
「整備がどうなっているか覗いてみたら、なんだか面白いことになってんのねぇ……」
修理の様子を見にきたバレンシアが、その様子をみて思わず声をもらした。
「いや、だって……お嬢……いや、姐さん。アルフィンさんの指摘が的確なんで……」
しどろもどろに答えるガリクソンを見てバレンシアは苦笑いした。
確かに指摘は正しいのだろう。目を離した数日の間にグランディアの様子が様変わりしていた。鹵獲して山分けした盗掘者のフォートレスのパーツを適用したのか、アイアンクローしかなかったグランディアの腕に手ができていた。これにより、グランディアは武器を使いこなせるようになる。
「あ、バレンシア。ちょっと改造させてもらったからね」
「あいよ。あんたの好きにしてくれ。悪いようになってる様子じゃないからね」
「今までのアイアンクローはそり返して前腕に収めたわ。ソードストッパーとしても使えるし、バネの原理で出るから、その勢いで攻撃することもできるよ」
「見た感じ、エスパダの左腕とおそろいかい?」
「同じパーツを流用したからね。ただ、エスパダはガンランスのユニット付きにしたから、外側のソードストッパーしかないわ」
「ほほう……私のグランディアにはガンランスはなしかい?」
「背中のバインダーに各二本ずつ、計十二発装備と、腰カバーに左右各二本ずつ装備したわ」
「は、はあ……?」
武装の数が、開いた口が塞がらないレベルで増加していた。
しかし、アルフィンはそんなバレンシアの様子など気にもせずに説明を続けた。
「元々六発式のエーテル・ジェネレーターでエネルギーが無駄になっていたからね。これだけつけても動作に不安はないわ。この辺は二発式のエスパダにはできないから残念なのよね……」
「えっ……あっ……ええと……」
「一応、持つ気になるならシールドも持てるからね。ただし、重いので左右バランスが崩れるから、使う気があるならバランスを見るために何度か試乗練習しておいてね。調整はガリクソンさんで普通にできるから」
「………………」
「なにか質問はある?」
「いや……別にない……けどさ……」
一気にまくし立てられた後で質問はと訊かれて、バレンシアは流し目でガリクソンを見るが、彼もえへへと嬉しそうに笑っているだけだった。
「参ったね。正直期待以上の変身ぶりだよ」
今回のバジュラム戦のようにアイアンクローの歯が立たなければ打つ手がなくなってしまう。その状況改善をアルフィンがやってくれたのだから、さすがのバレンシアも頭を下げるしかない状況だった。
「それにしてもそんなに良い腕しているのに、なんだって専業のスミスにならないんだい? なんだったら、私がスミス・ギルドに口を利いてやってもいいんだよ?」
「ふふふ。ありがと。でも、遠慮しておくわ」
「なんでさ。あんたの腕ならちゃんと教育を受ければ、かなり稼げるスミスになれるはずよ?」
〝稼げる〟という言葉にアルフィンはクラッときた様子だったが、すぐさま正気を取り戻した。
「それだとネビルの手伝いができないじゃない。あと、私はシーカーという仕事がスミス以上に好きなのよ。見たことない遺跡を発見して、お宝を稼いで。行ったことのない場所で、お宝を稼いで……」
どう聞いても発見よりも〝稼ぐ〟というものに興味の中心があるように思える言葉だが、とりあえず整備を行うスミスよりも遺跡探しのシーカーの方が好きらしいということは伝わる言葉だった。
「まぁ、ネビルがお嫁さんでも見つけて定住を考えるなら、話は変わってくるのかもしれないけどね」
「ネビルが……よ、嫁……?」
その言葉を聞いた途端、バレンシアの顔が引きつり動きがぎこちなくなった。
それを察したガリクソンがさり気なく助け船を出した。
「そ、そういえば、ネビルさんとベルさんってどういう関係なんですか?」
「え? ネビルとベル? なんだろ? 腐れ縁? 結婚する気があるなら私を育てる時にお母さん扱いしたと思うんだけど、どう見てもお姉ちゃんなのよね……」
「え……?」
「あれ……? じゃあ、ネビルさんは……今、お付き合いしている人って……いない?」
「いないと思うけど?」
ガリクソンはニパッと笑い、誰が見てもその笑みの理由が分かる笑みをバレンシアに向けた。
「な、なななな……なんだってんだい?」
「ああ、そういうこと……」
「な、なななな、なにがそういうことなんだかサッパリ分からないわ。あは~ん、あはは~ん!」
虚しい高笑いが倉庫に響いたが、その場で話を聞いていた作業員たちが一斉にため息をついた。
「ななななななななななんだってのさ、おまえたち!」
「いえ……別に……」
「まあ、私はネビルが幸せになるなら、別に反対はしないけどね」
その言葉に倉庫内の全員がハッとし、次の瞬間、バレンシアに目を向けた。
「ななななな、なんのことやら……」
「もうバレバレなんだからいい加減去勢張るのやめたら? 私より一〇歳くらい年上じゃなかったっけ? そこまで行くと三〇が目の前よ」
「ぐっ……。わ、私とあんたは……え、えと……八歳差よ! まだ私は二四よ!」
「たった二年違いじゃん。私から見たら大した差ないから」
グサグサと突き刺さる言葉にバレンシアの心のHPはゼロに近づいていった。
そりゃ、一六歳の娘から見たら、二四歳も二六歳も大した差はない。しかし、二〇代になったらその二歳差はとても大きな差になると、バレンシアは声を大にして言いたかった。
「別に反対するつもりはないから、いい加減バレンシアから告白したら? いつまでも乙女プラグインをかましていると、行き遅れて寂しい老後を迎えることになっちゃうよ」
「なにその乙女プラグインってのはさ!」
「え? 言わないと分かんない? 殿方の方から告白してはじまる恋がしたいの~……とか、素敵な王子様が迎えにきてくれないかなぁ~とか思ってる人の頭の中に入っるという噂の《虫》の伝説よ」
「ぐっ……」
「まあ、さっさとやらないと、いつか誰かにかっさらわれちゃうかもねぇ……。気前が良すぎるせいもあって、ああ見えてモテるみたいだしねぇ」
「ぐっ……」
アルフィンの口撃を心のHP限界ギリギリで耐えきったバレンシア。
しかし、養女のアルフィンが反対しないということが分かったことだけは、彼女にとって幸運だった。だとすると、もはやゴールは近いのではないか?
なんとなくその情報だけでバレンシアはもう半ば勝てたような気がしてしまった。脳内では新生活のドラマが華開き、二人だけの新居での蜜月生活が展開しかけた。
「アルフィン……」
「なによ……?」
いつもあんたや小娘呼ばわりしかしないバレンシアが初めて名前を呼んだことに、アルフィンはなんだか背筋に悪寒が走るのを感じた。
「お、御母様って呼んでも……よろしくてよ?」
「………………」
倉庫内の空気が一気にザンネンなもので満たされ、誰もが一斉に深く大きいため息をついた。
「あ、あんたらなんだってのさ!」
「お嬢……そりゃダメだ」
「まだ早いわ!」
「やっぱ……反対しようかな……」
「なんだってのさあ!」
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