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あれから──ビイがいなくなってから、今日で2555日。手術台の上で笑っていた彼女はあの後どこかの研究所へ運ばれ、貴重なサンプルとして脳を取り出され、体を開かれ、臓器を、筋肉を、血管を、その全てを調べられ、利用されたらしい。
彼女が生きているのかそうでないのか、僕は知らない。
「ヒトの更なる進化のために、彼女は大きな利益をもたらすでしょう」
聞かされたのはそれだけだった。
実際その通りらしい。ビイがいなくなって以来、ヒトは夢を見て、怠惰を好み、昔の人間たちのように記念日を祝ったりするようになった。
今日はクリスマスイヴで、街はイルミネーションを楽しむヒトで溢れている。
何故僕たちはどんどん人間に近づいてゆくのだろう。欠陥ではなかったのか。効率が悪くてめんどうだと見下げてきたものが、いつの間にか愛おしくなったのだろうか。
考えても仕方のないことに時間を費やすのはやめて、もう眠ろう。
それはそれは大昔、夢に出てきた相手は自分のことを好いているのだという考えがあったらしいと、ビイから聞いたことがある。
──夢にまで会いに行くくらい、その人のことを想っているんだって。素敵でしょう?
僕は目を閉じて、今日もビイの夢を見る。夢にビイが出てきてくれる限り、僕はいつまでも彼女の愛を信じていることができる。
「おかえりなさい」
僕は幸福だ。
「ただいま!」
笑顔で手を広げる妻の元へと駆け寄った。
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