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「急に顔が変わったと思ったら、勝手に婚姻届が提出されていたんです」
そう語るのはAさん(仮名)。Aさんは職場の知人男性に勝手に婚姻届を出されていたのだと言います。
「犯人は小学校の同級生でした。彼が人事を担当している職場に転職したんです。マイナンバーカードのコピーを提出しなければならないところ、間違えて原本を持って行ってしまって……。思い出話に気を取られて彼がコピーを取った後に持って帰ったのに気が付かなかったんです」
婚姻の届出をするのに必要なのは婚姻届とマイナンバーカード。二〇二四年二月までは戸籍謄本、或いは抄本が必要でしたが、三月からは戸籍謄本の添付は不要となりました。
現行の制度では婚姻届の提出は一人でも行え、必要な本人確認書類は届けを提出する一名のみ。形式面の不備がなければ受理されます。その後、その場にいなかった方に本人確認通知を送られます。この場合、婚姻届が受理されてから本人が知るまで時差が発生する訳ですね。
ですが『同調』が発生した今、即日分かるようになります。何せ顔が変わる訳ですから。郵便受けと違って鏡は皆見ますからね。
鏡を見た時、衝撃を受けたのではないですか。
「驚いて言葉もありませんでした。悪夢のようでした。その時は昼休憩で……。職場で泣き崩れて早退しました」
相手が職場の同僚であるとAさんが気付いた時には、犯人は既に退職届を出して行方をくらませた後だったそうです。それからAさんが自身を取り戻すための戦いが始まりました。
「顔もそうですけど、戸籍も汚されたんです。戸籍を元に戻すために婚姻無効確認調停が必要になります。この調停が終わるまで、私の顔は犯人の顔と混ざったままでした。鏡やガラスに映る顔を見るのも辛くて、調停が終わるまで引き篭もっていました。毎日、死んだら楽になれるんじゃないかと思っていました」
離婚届を提出すれば犯人の顔とは訣別できたのでは?
「絶対に負けたくなかった。何で犯罪者のために私の戸籍にバツをつけなきゃいけないんだろうって。腑が煮え繰り返る思いでした。だから絶対にタダじゃ済まさないって。ありとあらゆる罪状を叩き付けて、刑事罰を受けさせました」
婚姻届を勝手に出されないために、対策として不受理届を予め出しておく人が増えています。
「どうして被害者ばかりが自衛しなければならないのでしょう。悪いのは罪を犯す加害者の側なのに。『同調』が起きた時点で予見できたことではありませんか。
戸籍謄本の取得を復活させるべきだったと思います。あるいは、必ず二人で窓口に来ないと受理しない、それだけでも防げることだと思います。一刻も早い法改正を望みます」
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