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牽制
家に帰ると、玄関に女物のパンプスが脱いであった。
彼女が来ている。
会えることが嬉しい半面、会えることが苦しい。
俺の気持ちなんて、全く、気づいていないであろう乙音が、帰宅した俺に声を掛けた。
「おかえりなさい、世那くん。」
「ただいま。来てたんだ。」
「うん。直哉さんと連休の旅行の相談してた。」
「旅行行くんだ。いいな。」
俺は作り笑いを浮かべながら言った。
旅行にいく?
2人きりで?
ふざけるな。
という本音は言えるはずもない。
「兄貴は?」
「お風呂入ってる。」
「そっか。」
こんな嫉妬にまみれた感情の時に、乙音とリビングで2人きりになってしまった。
俺の事なんて眼中にない彼女は、無防備に髪をかきあげた。
その瞬間、首筋に赤い痕が付いていることを俺は見逃さなかった。
俺はソファーに座っている乙音にそっと近づいた。
「ここ、見えてる。」
俺は兄が付けたキスマークを指でなぞった。
「あっ//やめて。」
「俺に見せたのは乙音さんでしょ?」
「違う///」
「しー。大きい声出すと、兄貴に聞かれるよ。」
そして、俺はキスマークの上にもうひとつ痕をつけた。
「ああっ//だめ……///」
乙音の声が耳に響く。
俺は理性をなんとか保ちながら、彼女の首筋から唇を離した。
「よし、濃くなった。これで旅行の時、兄貴に見せられないね。」
「なんでそんなことするの?//」
「むかつくから。」
俺は真顔で乙音に言った。
「それじゃあ、俺はそろそろ部屋に戻るね。」
「ちょっと、世那くん!」
「もうすぐ兄貴が戻るよ。その顔、どうにかしてね。」
俺は乙音に微笑んだ。
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