レトロ 其から

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レトロ 其から

私に、フランスの、人間関係を築いた訳でもない、有名パティシェから、住み込み留学の話が、はいった。 来日した時、私の菓子を食べて、将来が楽しみだと感じたらしい。 そう教えてくれた。 嬉しい。素直にそう想った。 だけど、私はパートナーになる彼女とのしばしの別れに涙する。 もし留学したとして、何時までも才能の目がでなかったらどうしよう?とか。私は彼女を失う恐怖に心震わせた。 でも、このままの腕前で終わりたくない。日本の中だけでも良いから、パティシェとして、更に高みをめざし、可能ならてっぺんをとりたいと、自分の本性に気がついた。 だから、どうやって、フランス留学を彼女に説明するか考えていたら、彼女にも恩師になる筈のパティシェから説明がされていたので、私は酷く焦った。 「フランスに行くのね?」と彼女は泣き出しそうな顔をして涙するのをころした。 「二人の約束覚えてる?」との彼女に「浮気はしない」私、そして二人で「溺愛する事」と息があった。 彼女は泣き笑いをしながら「フランス娘にハートを奪われちゃダメよ」 伝う涙をニノ指で拭い「君も大和撫子にうつつをぬかすなよ」と、二人は、まだローンが完済されていない、二人のささやかな愛の巣の、ダイニングで、肩に顔をうずめ、かたく抱きしめあった。お互いのシャツの肩のところに染みをつくりながら、愛を伝え合う。 「グラジオーラス」と彼女は耳元で囁いたので、花の名だよ[笑]それではと、間違いを指摘すること無く、了解と意を告げた。 後で知ることになるのだが、彼女は初めて二人が出会ったあの時の髪型とドレスを飛び立つ飛行機の風に翻す。粋だなと私は感涙するのだが。 国際空港の、飛行機の発着場で、飛行機の乗車口の、折り畳み階段が近く垂れる、アスファルトで、行き交う人目を無視して、二人は唇をあわせた。 了
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