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この中学という牢獄では、誰も私のことを分かってくれない。
私はあなた達の敵じゃない。彼を奪ってなんかいない。
皆と仲良くなりたい、それだけなのに。どうして石を投げるのだろう。
味方は誰もいない。中学という小さな世界では、異物は一瞬で処理されてしまう。私もきっと、消えてしまう。
悔しかった。どうして私だけがこんな目に遭うのだろう。
体育館裏の隅で誰かに見つからないように私は蹲った。もしかすると泣いているかもしれない。
その判別もできないくらいには、私は行き場を失っていた。
ふと、足音が聞こえる。まずい。今の状況で皆に見られたら大変な事になる。
けど、意外なことに、そこに居たのは同じクラスの男子だった。
「どうしたの? こんな所で」
心配げに、けど一定の距離を持って彼は私に話しかけてくる。
それが鼻についた。
「分からないよ、君には」
「そうだね。きっと僕には分からない。けどさ、僕も独りだから、つい」
確かに、彼は周りから一定の距離を置いているように私の目には映っていた。衝突を起こすこともなく、上手くやっていたから。
だから、縋ってしまった。この小さな世界で生きる術を、教えて欲しかった。
「......なら、教えてよ」
「何を?」
「どうしたら上手に生きられるのか、私に教えてよ」
彼は一呼吸置いて、それから頭の中から適切な言葉を丁寧に選ぶように言う。
「僕は上手になんて生きていないよ。ただ、やり過ごしてるだけ」
「でも、私はやり過ごせてない」
覚悟を決めるように、彼はまた一呼吸置いて、言った。
「何の解決にもならないかも知れないけど、持論を言っていい?」
祈りながら、頷きを返す。
「正しくなれ」
「......?」
「誰かの思う正しさじゃなくていい。君の信じるものを信じ続ければそれなりに楽しく生きられる」
自分で聞いておいて、何言ってるんだと思った。本当に何の解決にもならない。
「そんなの持ってない」
「君が背負ってるものが何かは分からないけど、何でもいいと思うよ。何なら『ざまあみろ』でもいい」
「何でも......?」
「ま、きっといずれ見つかるよ。それを胸に秘めればいい。揺るぎない何かを手に入れた時に、本当に強く生きられるんだ。僕らは」
そんなことを言われても、分からない。そもそも、揺るぎない何か何てものを私が持っていれば苦労していないのだ。
「なら、一つ教えてやる」
彼は優しい声で大切な言葉をくれた。
それはシンプルな内容で、だけど魔法の言葉だった。
何も無い私に差し伸べられた一筋の救いだった。
彼が教えてくれたその強さなら私は何処へだって行ける気がした。世界だって変えられる気がした。
悩んでいたのが馬鹿らしくなって心が軽くなる。私ってこんなに単純だったんだ。
「ありがとう」
言葉は喉をつっかえて、新鮮な胸の熱に追いついてくれない。
「どういたしまして」
困惑したような様子の彼を見やる。
「私も、君みたいになっていい?」
彼は微笑む。
「勿論」
私は貴方の魔法の言葉を抱いて生きるのだ。それだけで生きて行ける。
体育館裏に佇む小さな水溜まりを見て、私は自分が泣いていることに気づいた。
この涙の先にあるものが私の強さだ。きっと一生それは変わらないだろう。
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