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一日では何も変わらなかった。この学校を取り巻く空気は一切変わらず、昨日の出来事は今日の格好の面白いネタとして一瞬で消費されて終わる。
どうしてだろう。
後悔なんてない、きっとなかった。
今は分からない。私がしてきた事は全部無駄だった?
いや、気を取り直せ。誰か一人には伝わってるはずだ。そうでないとおかしい。
思案しながら、後ろ指を指されながら帰路に着く。あの日から私は孤独だ。
「なあ、ちょっといいか?」
男に話しかけられる。
「何やってんだよ、お前」
そこに居るのは、紛れもなく、私の大好きな魔法使いだった人だ。
「久しぶりだね! 私、ついにやったよ」
「そうだな。盛大にやらかしてくれた」
彼の眼は氷みたいに冷たかった。
「なんで......?」
「正しさはな、振りかざすものじゃないんだよ」
人のいない田舎道で、彼は無表情のまま言う。
頭の中が真っ白になった。心も何もかも冷えて上手く頭が回らない。
「確かに僕はお前に僕の座右の銘を教えた。けどな、それはお前の物じゃない」
「......!」
やめて。否定しないで。
「人の理想を、言葉を、お前の頭の悪い行動で汚さないでくれ。あれは僕のものだ。何も無い僕だけのものだ」
崩れていく。
「でも、私は貴方の言葉に救われたんだよ。神様に見えた、私でも世界を変えられるって......」
「うるさい」
崩れていく。
信じたものが崩れていく。
「お前はその浅い自己顕示欲を満たす為だけに僕の言葉を使ったんだ。それだけは僕の中で変わらない」
知らない、聞こえない。
「違う!」
「何がだよ。こんな事ならあの日、お前に話しかけなければ良かった」
「違うの、ほんとは」
そうだ、私は、強くなりたいんじゃない。強くなくて大丈夫なように、貴方の言葉で私は私を覆い隠した。
だから、結局は、これでしかない。
「私は! 貴方みたいになりたかった!」
気づけば大声が漏れていた。
祈りながら、彼の顔を見遣る。彼は鼻の周りをしわくちゃにして吐き捨てた。
「キッショ」
背を向ける彼を、私は呆然と見つていた。
そうだ、馬鹿は私だ。何も分かってなかった。今だって分からない。夕日が私を刺すようだ。視界全てがぼやけて見える。
確かにそうだ。こんな思いをするなら......
そう思いながらも、魔法の言葉は私の胸で淡く輝き続けている。
空虚を遺して、魔法の残像に私は縋り続けた。
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