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祖父と孫
晃太とは、じいちゃんの友達が経営する卓球クラブで出会った。僕達が小学校4年生の夏休みのことだ。
その夏、僕は母さんと2人で祖父母の家に行った。少し長い滞在になるかもしれないと言われ、夏休みの宿題を全部リュックサックに詰め込んだ。いつもは父さんの車で行く道程を電車に揺られて、駅弁を食べて。僕は楽しくて、ずっとニコニコしていた。
友達と遊べないことと、学校で開放していたプールに行けないことは残念だったけど、祖父母の家の周りにはまだ畑や空き地が残っていて、子どもが駆け回るには充分だった。
だけど、1週間が過ぎた頃、子ども心にも“なにかヘンだ”と気づき始めた。母さんの表情はずっと冴えないし、夜中にトイレに起きたとき、激しい口調で罵ったり泣いている声を聞いた。そう。この時点ではまだ知らなかったけれど、両親は離婚の危機を迎えていたんだ。
「俊貴、アイス食いに行くか」
「うんっ!」
漠然とした不安に囚われ始めた頃、じいちゃんは畑仕事を休んで、珍しく僕を誘ってくれた。早起きの朝顔も萎む、一際暑い午後だった。
「帽子被って行きなさい」
じいちゃんは自分の畑作業用の、僕はばあちゃんの一回り小さな麦わら帽子を被せられて、ミンミンゼミの合唱の中を歩いた。
「じいちゃん、スーパーに行くの?」
「いや。面白いところだぞ」
そう言って連れて来られたのは、商店街の外れにある古びた雑居ビルの2階だった。
狭くて急な階段を上ってドアを開けると、少し広い玄関があった。すぐ横に木製の下駄箱があり、運動靴が数足入っている。そこでスリッパに履き替えると、じいちゃんは引き戸をガラガラと開けた。間仕切りのない広い板敷きの空間に、水色の長方形のテーブルが並んでいて――。
カンッ、カンッ、カンッ……カカッ
一番奥のテーブルで、軽快な音を響かせながら踊るようにステップを踏む人達がいた。
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