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「こんちはー」
「おンや、西田の。久しぶりだァね」
じいちゃんが挨拶する。ちょっと訛りのあるしゃがれ声が返り、引き戸近くのカウンターの中で白髪頭のお爺さんが立ち上がった。
「今日も暑いなぁ」
「夏だからなァ」
「2本、もらえるかね」
「うン? あンたの孫かね」
「ああ。俊貴」
「あっ、に、西田俊貴です。こんにちは」
「はいはい、こンにちは」
麦わら帽子を脱いで頭を下げる。じいちゃんと同じくらいの年に見えるお爺さんは、口元だけ緩めるとカウンターの奥に消えた。
「俊貴」
壁際のベンチにドカッと腰を下ろすと、じいちゃんが手招きした。隣に座る。エアコンの涼風がユルユルと前髪を撫でた。
「はい、どうぞ」
「すまんな」
「ありがとうございます」
白髪頭のお爺さんは、両手に持った水色の小皿を僕達に渡してくれた。銀色の紙に包まれた長四角いアイスバーが乗っていて、僕はじいちゃんに倣って紙を剥き、乳白色の塊に齧りついた。アイスバーは期待通り、スゥッと冷たくて、甘くて、喉に達する前にすぐに溶けた。
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ……
2つ向こうのテーブルでは、やはり律よく舞いが続いている。遠目では分からなかったけれど、1人は長身で大人っぽいが、もう1人は僕と同じくらいの小学生に見えた。
「じいちゃん……」
アイスバーを食べたあとも、テーブルを挟んで対峙する様子を眺めていた僕は、いつしか目が離せなくなっていた。美しい身体の捻りや無駄のない足の運び、握った楕円形の板から放たれる白い球の速さ、そして彼らの精悍な眼差しに。
「卓球だ。やってみるか?」
「いいの?」
じいちゃんは空いた小皿を持ってカウンターまで行くと、白髪頭のお爺さんと少し話してから戻ってきた。その手に、楕円形の赤い板と白い球、青いタオルが入った小さな籠をぶら下げて。
初めて握ったラケットは手に重く、白球には思ったように当たらない。
カ、ンッ……カカカカカッ
不細工な音を立てて球が床を転がる。
カカッ、カカカカ……
初めて野球バットを振ったとき。初めてサッカーボールを蹴ったとき。始めから上手くなんていかなかった。けれど、卓球はもっともっと難しかった。
見かねた白髪頭のお爺さん――高崎さんが色々教えてくれたけれど、じいちゃんがゆるーく打った球をラケットに当てることが精一杯で、自分が上げた球を打つ“サーブ”はほとんど空振りだった。もちろん、中央のネットなんて一度も越えられなかった。
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