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初恋と失恋
僕達の中学校の卓球部は、特に強い訳ではなく、県大会に進むことが“悲願の目標”として掲げられていた。
最初、僕も晃太もシングルスで戦っていたけれど、2年生になると顧問の先生がダブルスを組むことを提案してきた。
「攻撃型の中都留と、守備型の西田は、なかなか面白いペアになりそうなんだけどな」
「「はぁ……」」
僕達は顔を見合わせた。確かに互いの呼吸も、得意不得意も、打撃のリズムも分かっている。
「秋の大会の初戦突破を目標に、ちょっとやってみないか」
「分かりました」
「はいっ」
夏休み中は、基礎体力向上の走り込みに加え、ダブルスのフォーメーションを徹底的に繰り返し、基本的な戦略を叩き込まれた。
「いいか、西田はカットマンなんだから、もっと早い打点で返して相手のミスを誘え!」
「はいっ」
「中都留は体重移動を早く! お前、シングルスのときの悪い癖が出てるぞ!」
「はいっ」
「西田っ、チャンスボールは打てっ!」
「はいっ」
走り込みのあと、校庭の水飲み場で頭から水を被る。
「あー、きっつい」
「晃太……僕、足引っ張ってるよな」
共に過ごせば過ごすほど、晃太の上手さや精神的な強さが目立ち、僕は自分との実力の差を見せつけられた。分かってはいたけれど、追いつけない背中が遠くて嫌になる。
彼の武器であるフォアハンドの強いドライブを活かすには、僕が粘り強く繫いでチャンスを作るしかないのに。
「ばーか。くっだらねぇこと考えるなよ。俺がダブルスを受け入れたのは、相方が俊貴だからだぞ」
前髪から垂れる水滴をタオルでワシャワシャ拭きながら、晃太はニカッと笑った。日差しの加減で、瞳が琥珀色に輝いたように見えて、ドキリとした。
「他のヤツに、俺の隣を任せられっか」
「なんだよ、それ……わっ!」
呆けていると、水がピューッと放物線を描いて僕に飛んできた。晃太の指が蛇口を器用に押さえ、笑っている。
「そりゃ、負けたくない。だけど、俺は俊貴と勝ちたい」
多分、この瞬間……僕の中に特別な想いが生まれたのだと思う。その想いの正体に気づくのは、もう少しあとのことだったけど。
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