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16:00
「はぁー、建山さん、売り方だったのか。そりゃ運がよかった。売りから入ると、相場の下落で資産が増えるからな」
「でも結局、今日やった修正データ全部、無駄になりました。入稿はなんとか出来ましたけど」
「そういう日もあるよ。デザイナーを爆発させる呪文の中では、破壊力の低い方だった」
先輩はこういう案件を何百件もこなしてきたんだろう。とっても軽い反応だ。
「先輩。僕、ドロップシャドウを多用しないデザイナーになりたいです」
「影川、ドロップシャドウの多用が不正解なわけじゃない。もし正解のデザインというものがあるとしたら、それは先方がOKを出したデザインだ。売れたデザインが正解のデザイン。それはデザイナーだけで決めることじゃない。建山さんは今日、それを影川に教えてくれたんだ」
そうだろうか。今日はマーケットの不条理さしか学んでない気がするけれど。
それでも。こういう日を積み重ねたら。
僕のPCのキーボードの⌘と、X、Z、Sのキーが深く削れる頃には、僕は先輩くらいの鬼速デザイナーになれるだろうか。
そうしたら先輩の負担が軽減して、先輩はペンギンから人に戻ってくれるだろうか。
僕は人に戻った先輩と、再び肩を並べて仕事をするところを想像してみる。
そういえば先輩って、人間だった時、どういう顔をしていたんだったっけ?
先輩、早くあなたに会いたい。
了
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