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「はぁー、建山さん、売り方だったのか。そりゃ運がよかった。売りから入ると、相場の下落で資産が増えるからな」 「でも結局、今日やった修正データ全部、無駄になりました。入稿はなんとか出来ましたけど」 「そういう日もあるよ。デザイナーを爆発させる呪文の中では、破壊力の低い方だった」 先輩はこういう案件を何百件もこなしてきたんだろう。とっても軽い反応だ。 「先輩。僕、ドロップシャドウを多用しないデザイナーになりたいです」 「影川、ドロップシャドウの多用が不正解なわけじゃない。もし正解のデザインというものがあるとしたら、それは先方がOKを出したデザインだ。売れたデザインが正解のデザイン。それはデザイナーだけで決めることじゃない。建山さんは今日、それを影川に教えてくれたんだ」 そうだろうか。今日はマーケットの不条理さしか学んでない気がするけれど。 それでも。こういう日を積み重ねたら。 僕のPCのキーボードの⌘と、X、Z、Sのキーが深く削れる頃には、僕は先輩くらいの鬼速デザイナーになれるだろうか。 そうしたら先輩の負担が軽減して、先輩はペンギンから人に戻ってくれるだろうか。 僕は人に戻った先輩と、再び肩を並べて仕事をするところを想像してみる。 そういえば先輩って、人間だった時、どういう顔をしていたんだったっけ? 先輩、早くあなたに会いたい。 了
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