日経平均が上下すると右往左往するデザイン事務所で

9:15

過労が一定の値を越えた人間は、ペンギンになる。現在治療法は確立されていない。

僕はペンギンに詳しくないので、先輩が何ペンギンかはわからない。ただ、先輩の随分短くなった水かきつきの足は、彼を鬼速デザイナーから引退させた。

人をペンギン化させた会社は、職場環境の劣悪さを自ら周知するようなもの。

働き方改革が叫ばれる昨今、企業イメージが最悪だ。ペンギン化した勤め人は存在を隠匿されがちで、社会問題にもなっている。

さらに悲惨なのは、個人のデザイン事務所。

営業も打ち合わせも見積もりもデザインも、全てをたった二人で回す零細で、片方が新卒新人だった場合、社長のペンギン化は不可避だ。

というわけで僕のペンギン先輩は、黒い水かきのついた脚をぎこちなく使って、mohoo(モフー)ファイナンスのwebページを開いた。

mohooファイナンスは、今日の日経平均株価が-1200円だと告げている。

「オレが聞いた話だと、建山さんは株をやってる」

「へえ？」

「非常に雑に言うと個別株と日経平均株価は相関関係にある。今日は日経が今年最大の下げ幅を記録してるから、個別株もだいたい最悪で建山さんは機嫌が悪い。機嫌が悪いから、無茶振りクレーマーになっている」

「ということは、建山さんの持ち株が上がりさえすれば、建山さんの機嫌は戻って、24ページもあるのにインデを導入してもらえずにイラレでデータ作ってるからPCの動作がいちいち激重でサイテー、っていうこの気分も消える？」

「やめろ影川、短い脚のせいでショートカットキーを使えなくなって新人のフォローも満足にしてやれないオレを責めるんじゃない」