変な男*

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変な男*

 夜間学校の授業を終えて、銭湯に寄り道しいつもと同じ道を歩いて帰る。何の変哲もない日常の一部。ただ今日は少々イレギュラーな事が起こる。  「ふざけんな」と叫ぶ女性の声が聞こえて、前方に目を向けると向かい合う男女二人組の姿が見えた。次の瞬間、女性が思いっきり男性の頬を平手打ちした。うわ、修羅場だ。行き交う人達が僕と同じようにチラチラと見ている。泣きわめく女性と他人事のように遠くを見つめる男性。男性が面倒くさそうに「もういい?」と言うと女性はもう一発お見舞いして去っていった。僕が通り過ぎる僅かな時間の間に起きた出来事。痛そう……と思って視線を逸らそうとしたが、男性と目があった。他にも泣かせてる人いそう。そんな風に思うほど目を引く容姿をした人だった。今度こそ視線を逸らして歩き出す。 「ねぇ、待って」  勧誘か何かだろう。こういうのは聞こえないフリをするに限る。 「ねぇってば」  肩を掴まれて振り返ると先程平手打ちをされていた男の人が立っていた。僕が見ていたから何か因縁をつけられるのだろうか? 「俺、覚えてない?」 「え?」  予想外の言葉だ。何処かで出会ったことがある人なのだろうか?まじまじと見つめるけれど見覚えはない。 「初対面だと思いますが……」 「え?」  いつも通り小さな声で喋ってしまった。 「初対面だと思いますが」  さっきより大きな声で言うと「あれ、そう?」と釈然としない表情をされた。「人違いか。でも似てるな」などと呟いている。 「それじゃあ」  帰ろうとした僕の腕を彼が掴んだ。 「……あの、何か?」 「さっき見てた?」  さっきというのは修羅場のことだろう。もちろんバッチリ見ていた。でもバッチリ見ていましたなんて言うのも変な話だ。「まぁ、少し」と曖昧に言葉を濁す。 「いやー、困ったことになったんだよね」 「はぁ」 「あの子と住んでたんだけど、まぁ見ての通りお別れしまして」  何も言わずに続きを待つ。 「住むとこなくなったんだよね」 「大変ですね」 「君一人暮らし?」 「え?」 「泊めてくれない?」  この人は何を言ってるんだろうか。初対面の人の家に泊めて欲しいとか正気なのか? 「すみません」 「そこをなんとか」  ここで家族と住んでいると言えばよかったのにそうしなかった僕は馬鹿だ。 「あなたなら泊めてくれる人たくさんいるんじゃないですか?」 「うん、いるよ。でも、君がいい」 「はい?」 「君が気になる」 「気になる?」 「うん」 「すみません、無理です」  そう言って駆け出した。どうして見ず知らずの人を家に上げないといけないんだ。変な人に絡まれた。普段運動なんてしないし、運動が苦手な僕はすぐに息が上がる。
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