ショウタイム

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ショウタイム

その絵本は白色をしている。真っ白である。でも何も描かれていないわけではない。 その絵本の色は白色なのだ。 その絵本は、白く輝いている。 足下が暗い。だが下を見る必要はない。 前を向こう。前だけを見よう。 さあ、開演の時間だ。 絵本の主人公は誰だろう。それは絵本を描く描き手である。 本の中から飛び出してきたのは小さな小人の少女だ。オシャレな服を着ている。可愛らしい靴とおだんごにされた茶色い髪。ネックレスにブレスレットまでしている。よく見えないが、きっと丁寧にお化粧まで施しているのだろう。 少女は人形のように愛らしかった。 開かれた絵本の上で一生懸命動く少女は、観客の目を鷲掴みした。 一筋のスポットライトは少女だけを浮き彫りにしている。笑顔を振り撒く少女はなんて可憐なのだろう。しかしそれだけである。 少女は必死に口を動かして何かを伝えようとしている。そして一定のリズムを刻みながら手足を動かしている。 少女は歌っているのだ。そして踊っている。なんて愛らしい姿なのだろう。 その歌声はあなたにさえ届かないのに。 少女は小さすぎるのだ。何もかもが小さすぎて、歌声が届かない。届いていない。 どんなに頑張っても、本当に少女が届けたいものが観客に届くことはない。少女は小さすぎるのだ。 ステージの上では少女は一人きりだ。その歌声がどんなに素晴らしくても、観客たちにそれが届くことはない。 あなたは知っている。一人では限界があるということを。 少女は真っ白な「絵本」というステージの上で、誰にも届かない歌を歌っている。少女は一人だった。 スポットライトが少女だけを照らしていた。 一曲終わったかのような時間が過ぎて少女は一礼した。その姿に観客たちの目は釘付けにされた。 そして少女は絵本のページを一枚、えいやと捲った。 とても可愛らしい動きである。だがそれまでだ。絵本はきっと何枚ページが捲られようとも同じ曲を繰り返す。 少女をみているのは「観客」ではなく、ただの通りすがりの「見物人」なのだ。誰も彼女の歌を聴いてなんていない。聴こえていないのだ。 それでも少女は一人で歌い続ける。 そこに音楽というものはあるのだろうか。たったひとりで、ただ淡々と歌うことに意味はあるのだろうか。 少女は何のために歌い踊り笑うのだろうか。何が楽しくて絵本から現れるのだろうか。 ひとりで歌って満足すればいい。結局誰もみて聴いてはいないのだから。少女は何か他のことをあなたに伝えようとしている。
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