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ホテルのパーティー会場の外で受付を済ませ、プロフィールカードを書く。
ダリル王子は一生懸命埋めているが、私は好みのタイプ以外は何も書かなかった。
「できた!」
流麗な文字で記載された内容を覗き込む。
好みのタイプに『顔も性格も良くて、生涯俺だけを愛してくれる人』と書かれており、私のことか? と口の端を広げた。
「何笑っているんだ? エリックのも見せろ」
私の手からカードを取ったダリル王子は、眉間に皺を寄せてこちらを睨む。
「名前すら書いていないじゃないか。唯一書いてある好みのタイプが『金髪碧眼25歳』と限定しすぎだろ」
「それ以外に興味がないので」
「エリックは相手を見つけるのも大変だな」
すぐ隣にいますが?! なぜ自分のことだと思わないのか。
「ダリル王子は具体的に外見の好みはないのですか?」
「そうだな、どちらかといえば背は高めでモデル体型がいいな」
私は身長187センチ。ダリル王子より12センチ高い。
軍のイメージアップのため、と女性誌でグラビアもやらされた。拒否したが、上官命令、と言われれば従わざるを得なかった。身長も体型もダリル王子の好みであると思う。
「よし、好みの相手を探すぞエリック」
「はい」
会場に入った途端話しかけられた。
「お2人ともカッコいいですね。年収が書いてありませんが、教えてください」
肩や脚を露出して、まつ毛が不自然なほどバサバサで化粧と香水の匂いが濃い。
ダリル王子のまつ毛を見てみろ。天然でこの密度と長さ。まつ毛を植えるなら、見本にしろ。
「エリック、俺って年収いくらだ?」
「ありませんね」
公務でダリル王子へ個人的に入ることはない。
「無職かよ」
舌打ちをして踵を返していった。
「ダリル王子への侮辱、許されません。反逆罪として処刑しましょう」
「待て待て! 俺を愛してくれる人を見つけるチャンスじゃないか。年収は0と書き加えておこう。ちょっといろんな人に声を掛けてくる」
顔よし愛嬌よし立ち振る舞いもスマートで美しい。そんなダリル王子に話しかけられて嬉しくない相手などいない。だが、ここは結婚相手を探す平民の集まり。収入0でヒモ目的だと思われているのか、挨拶程度で皆ダリル王子の元を去る。
肩を落としてこちらに戻ってきた。
「エリック、全然ダメだった」
「断られ続けても何度も声を掛けるメンタルの強さは賞賛に値いたします」
「そんなのいらねー! もうさ、無職じゃないよ王子だよ、って言ってもいい?」
「それで寄ってこられて嬉しいのですか? ダリル王子の魅力が分からない人間など相手にしなくていいんです」
ここで年収0、と私が何をするでもなく、勝手に自爆してくれたのだ。わざわざ興味を持たれることを言わせるわけがない。
その後はダリル王子と食事を楽しんだ。
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