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 私とダリル王子の姿を確認すると、近衛兵が重厚な扉を開いた。中に入ると玉座に座る陛下と傍に控える陛下の側近である父ウォルターが首を長くして待っていた。 「ダリル、遅かったな」 「父上、約束の時間にはまだ早いです」 「2人の時はパパって呼んでって言ってるでしょ!」 「エリックとウォルターがいます」 「エリックとウォルターはいいの!」  甘えて欲しい、と駄々を捏ねる陛下に父が虚な目を向ける。  第五王子であるダリル王子は末子ということもあり、親兄弟に可愛がられ甘やかされて、それはそれは愛され育ってきた。25歳になった今でも、陛下は目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりだ。  もちろん私も同じ気持ち、というわけではない。私は挿れたい。 「パパ、俺に何の用があったんですか?」 「早く会いたかっただけだ」  デレデレっぷりは他の者に見せられないな、と父が頭を抱えているようだ。王の威厳などない。 「そうですか……。ですが、用があったから呼ばれたのではないのですか?」 「もう親子の会話を終えて本題に入るつもりか?」 「そうしてもらえると助かります。公務もありますので」  ダリル王子ではなく無表情の父が口を挟む。陛下が父を睨むが、父は素知らぬ顔で姿勢を正した。陛下がこちらに向き直り、ゴホンと咳払いをして表情を固くする。 「昨日、アイリーン嬢から断りの連絡があった」 「えっ? また?!」 「そう、まただ。いつになったら結婚するんだ?」 「別れる時に笑顔で、また会いたい、と言ってくださいましたよ」 「社交辞令って言葉知ってる?」  陛下が頭を押さえて大きな息を吐き出す。  実際は社交辞令などではない。ダリル王子と食事やデートをした相手は、女だろうが男だろうが、全員もれなく惚れていた。ダリル王子はそれほど魅力的な方だから。  結婚をなんとしても阻止したい私が、寝取って圧力をかけて、寝取って圧力をかけて。……私の涙ぐましい努力は自分で称えよう。 「そうですか……。気を取り直して、次は来週、街コンというものに参加してみようと思います。そこなら大勢の人に出会えるみたいですし」 「いくら平和な国だといっても、王子が街コンに参加するなんてある? もう少し自分の立場を考えて」 「エリックと一緒ならいいですか? ねぇ、ウォルター、いいでしょ?」  陛下ではなく父に甘えた声を出したせいで、陛下の眉が跳ね上がる。父ではなく私に、一緒に行こう、とおねだりしてくださればいいのに。  父が厳しい目つきで私を見据える。 「エリック、王子に傷一つ付けさせるな」 「もちろんです」  ダリル王子の幼少期に教育係をしていた父も、なんだかんだダリル王子には弱い。 「やったー、ウォルター大好き!」  父に飛びついたダリル王子を見て陛下が、処刑してやる、と血涙を流した。これに関しては全くの同意見。父だけずるい。護衛するのは私なのだから、私がそのご褒美を受けるべきなのではないか。 「頑張って結婚相手見つけます! 行くぞ、エリック」  頭を下げて、部屋を出て行くダリル王子に続いた。
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