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 私室に入るとダリル王子は最高峰のソファに体を沈めて足を投げ出した。 「喉が渇いた」  濃いめの紅茶にミルクをたっぷり注ぎ、テーブルに置いて後ろに控える。 「自分の飲み物も用意して正面に座れ。今は俺と2人だ。友人として俺の相手をしろ」  ダリル王子を友人だと思ったことなどない。残酷な方だ。  はい、と頭を下げて同じ紅茶を用意する。私が正面に座ると、ダリル王子は指先まで洗練された所作でカップを掴んだ。 「友人として正直に答えてくれ。何で俺は断られ続けるんだ?」 「ダリル王子が『政略結婚は嫌だ。恋愛結婚しかしない』とおっしゃっているからですね。相手にも『ダメなら断って欲しい』と最初に頼んでいますよね」 「だって結婚したら、死ぬまでイチャイチャラブラブしていたいじゃないか。目も合わせない、少し触れただけで舌打ちされるような結婚生活なんて送りたくない」  恋愛結婚でも、夫婦仲が冷え切ることはある。  私ならダリル王子の望み通り死ぬまで、いや墓の中であろうとイチャイチャラブラブすると誓えるのに。 「いつもデート中はみんな楽しそうで、また会いたい、って言ってくれるんだぞ」 「陛下もおっしゃっていましたが、社交辞令なのでは? いくら断っていいと言われていても、貴方の前ではいい顔するでしょう」  ダリル王子はデートした全員に好意を抱かれている。それを寝取り圧力をかけて私が排除しているのだが、それは誰にも知られていない。 「エリックのアホ! もっと優しい言葉で言え!」 「友人として、とおっしゃられたのはダリル王子です」  こちらを睨み、はあ、と肩を落とした。 「実際、俺は何がダメなんだろう? ……もしかして、完璧すぎるから釣り合わない、と気後れしてしまうのではないか?」  ダリル王子の前向きすぎるところは好感が持てる。事実、彼に悪いところはない。私が徹底的にはね除けているだけなのだから。 「だって俺、顔はいいし」 「それは認めます」 「性格だって問題なし」 「そう言ってしまうところが問題なのでは?」 「金持ちだし」 「国の金です」 「難関校を2位で卒業した頭もある」 「トップは私でしたね」 「……お前、いい性格してんな」  ジト目を向けられる。そんな顔も愛おしい。
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