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 ダリル王子は私室に入るとベッドにダイブする。片膝をつき、足からゆっくりと靴を脱がした。 「結婚を諦めてはいかがですか?」  気に入られたとしても、私がどんな手を使ってでもダリル王子から引き剥がす。有象無象の連中と結婚なんてさせない。  ダリル王子は飛び起き、口をへの字に曲げて目を険しくさせた。 「絶対に諦めない。俺は結婚がしたい」 「では、私と結婚いたしますか?」  目を瞬かせ、透き通るような綺麗な目に凝視される。 「俺とエリックが結婚?」 「はい、ダリル王子と結婚できるのなんて私くらいでしょう。貴方の条件にもぴったりではありませんか? 『顔も性格も良くて、生涯俺だけを愛してくれる人』ですよね?」 「……顔はいいかもしれないが、お前は性格良かったっけ?」 「ダリル王子がおっしゃられたのですよ。『いい性格』と」  眉尻を下げ、微かに口角を上げた。 「皮肉だよ。……本当にいい性格してんな」 「それに背が高くてモデル体型でしたよね?」 「ああ、でも1番重要なのは生涯俺だけを愛してくれるか、だ」 「10年前、初めて父に城へ連れられてから、ずっと貴方だけをお慕いしています」 「初めて会った時からってことか?」 「ええ、10年貴方だけを思ってきたので、この先も変わることなんてありえません」  ベッドの端に腰掛け、こちらに向かって手を伸ばす。正面に立てば腰に腕が回された。 「全然気付かなかった。本当に俺と結婚できるのはエリックだけなのかもな」 「では、結婚して頂けますか?」 「ああ、結婚しよう」  心の底からの歓喜に、温かな涙が頬を伝った。 「もっと早く自分の気持ちをお伝えしていれば良かったです」 「そうだな、エリックには辛い思いをさせた。他の人とのデートの話を聞かせて」  端正な指が顔に触れ、そっと目元を拭ってくれる。 「もう結婚してくださると約束してくださったので話しますが、ダリル王子が断られ続けていたのは私のせいです。他の相手と結婚するなんて我慢がならず、ずっと邪魔してきました」 「は? ……お前、何言ってんだ? え?」  腰から腕が離れ、口元に手を添えて狼狽えている。 「私以外の相手と結婚するというのならば、結婚なんてしなければいいと思っていました」 「え? 俺が今まで結婚できなかったのってエリックのせいなの?」 「そうですね。それほど貴方を愛している、ということです。心変わりなどありえません。死ぬまでイチャイチャラブラブできますよ」  私がいなければ、早くに結婚できていただろう。でも、死ぬまでイチャイチャラブラブできるかは保証できない。私はできる! 「それを聞いて俺が結婚を断るとは思わなかったのか?」 「監禁とかも考えはしましたが、それをしたら私の好きなダリル王子ではなくなります。私はそのままの、自由な貴方をお慕いしています。断られたら結婚を阻止し続けるだけです」 「……本当にいい性格してんな。だが、俺をそこまで愛してくれるのは、エリックだけなのだろうな」  ダリル王子は通信端末を取り出して耳に当てた。 「ウォルター、父上に伝えてくれないか。結婚相手が見つかったから連れて行きたい、と。……分かったすぐに行く」  通話を終えると脚を伸ばす。土踏まずを掴んで甲にキスをしようとしたら脚を引っ込められた。 「靴を履かせればいい。もう足にキスするな」 「私の楽しみを奪うのですか?」 「結婚するのだから口にすればいい。まずは靴を履かせてくれ」 「は、はい」  麗しい足を支え、靴を履かせた。  立ち上がったダリル王子の腰に手を回して引き寄せる。顔を近付けると手で唇を覆われた。 「そう急くな。父上に報告してからだ」 「申し訳ございません」  手を離すとこちらに背を向ける。 「それが終わったら、エリックの好きにしていいから。……行くぞ」  扉を開けるためにダリル王子の前に出る。視線を逸らされるが、耳まで赤く染まっていた。絶対に抱き潰す!  いつもより早足で進んでいく後ろをついて行く。
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