黒狼将軍の佳麗な仕立て屋

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薄暗い部屋に小さな魔灯が灯っている。弱々しい光は、今のローレンスと同じく今にも消えそうに儚いものだ。 それもそのはず、魔灯は自分自身の魔力を使う。痩せ細ったローレンスは、父に命じられた魔導衣の制作に大量の魔力を注いでいて、今にも倒れそうだった。 魔導衣とは、最高峰の防具だ。甲冑とは違い、ジュストコールに魔石を縫い込み、付与を与えることでさまざまな効果を生む。例えば、火魔法なら触れた相手を燃やす、風魔法なら切り裂く、土魔法はバリアを張る……などだ。効果は使用者によって違うので、各魔導衣工房の極秘事項となっている。 魔力を持つ人間は限られ、基本的に一人につき一属性が常だ。つまり、一着完成させるには属性が違う四人の職人が必要となる。 だが、ローレンスは全属性を持つ稀有な存在として職人たちに褒めそやされ、新技術を次々と編み出していた。 工房で働くのは楽しかったが、成果が出ない時の父の対応は冷たかった。母との関係はもっと冷え切り、ローレンスは心を痛めていた。なぜ父が母を疎んでいるのかは、屋敷の使用人以外と接するようになり分かってきた。 ミクソン侯爵家は、魔力が減少しつつあった。そこで、優秀な魔力を持つ男爵令嬢だった母と政略結婚した。だが、自分より才能のある妻が気に入らなかったのだ。 ――母上が家の財政を立て直したのに、矛盾してる…… それに、ローレンスの顔立ちが可憐な母そっくりで、陶器のように白い肌、金髪だったことも父を落胆させた。唯一、真っ青な瞳に、星を散りばめたような金の虹彩だけがミクソン家の証だった。 父は気分屋で、ローレンスに対しても整合性のない対応をする。それでも、愚かな自分は愛されたかった。 父が笑顔を見せてくれたのは、魔力の才能を見せ始めた時だった。しかし、10歳で工房を手伝うようになってから、すぐに忌々しいものを見るような目に変わってしまった。 『天才と言われていい気になっているのか』『私より能力が上だと見せつけたいのか』 口癖のように繰り返され、心は萎縮していく。それでも父の愛を求め、懸命に新しい技術を生み出せば、一旦は喜んでくれる。その中で生まれた人気商品は、羽ばたく蝶のモチーフだ。社交界で一躍人気となり、ドレスを飾る逸品として、注文は引も切らない。
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