真冬の空に光る星

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「チョコ刻んだぞ」 「じゃあ湯煎しましょう」 「湯煎? どうやって?」 「小鍋にお湯を沸かして、温まったらその上からボールをのせ、ゆっくりチョコを溶かしていくんです。お湯の温度は、お風呂よりも少し熱いくらい」 「なるほど!」  門馬さんは、真剣な表情で私の言葉に耳を傾けてくれる。  私でも門馬さんに何か伝えることができるんだ。そう思うと、やる気も喜びも漲った。  彼は有言実行だ。  些細なことの一つ一つに、言葉の端々に、私を勇気づける魔法が潜んでる。  一生懸命ゴムベラを動かしながらチョコを見つめる横顔が微笑ましくて、胸の奥がじんわり温まっていくのを感じた。 「あ、門馬さん、チョコついてる」  いつの間にか、彼の頬についていたチョコレート。  咄嗟にシャツで擦ろうと腕を上げる門馬さんを慌てて止めた。  側にあったティッシュを一枚とり、そのまま頬に近づける。  結果的に私が門馬さんのほっぺを拭う形になってしまった。  自分らしからぬ大胆な行動に戸惑って、一気に体温が上昇する。 「すみません! 出すぎた真似を!」 「いや……ありがとう」  少年のように無邪気に笑う門馬さんに胸が締めつけられる。  なんだろう。この、今にも絶叫したくなるほどのくすぐったさと苦しさは。  門馬さんのことを、可愛らしくて堪らないと思ってしまった。  突然響いたスマホの着信音に、余計に心臓が高鳴る。  門馬さんはテーブルからスマホを手に取り、しかめっ面をしてため息をついた。 「……出ないんですか?」 「ああ。急用じゃなさそうだし。もう、電源切っちまえ」 「え!?」  電源ボタンを長押しする門馬さんに絶句する。 「いいんですか? 大切な仕事の連絡があったら」 「構わない。今はオフの時間だ。オンオフきっちり区別するのが俺のやり方」 「はい……」  さすが門馬さんだ。  私だったら、例えオフの状況でも呼ばれた瞬間、断れずにオンモードに切り替わってしまいそう。 「今はお前との大切な時間だ。誰にも邪魔されたくない」  真顔で投下された爆弾発言に、再び心臓がけたたましく動く。  そんな思わせぶりな台詞も、自己肯定感アップの為だと頭ではわかっているけれど。 「次の工程を教えてくれ」 「は、はい!」  喜びが溢れて抑えられない。 『お前との大切な時間』  そんな優しい言葉、元カレの慎司だって言ってくれたことはなかった。  食事中、スマホに夢中だった慎司の姿を思い出す。 「見てくれ! うまく卵割れたぞ」  屈託なく笑う門馬さんを見て我に返り、愛しさが込み上げた。 「ホントだ! 上手! 料理の才能ありますね!」 「だろ!? 俺、素質あるよな!」  私もこの時間を目いっぱい大切にしたい。  未来の自分が振り返ったら、きっと煌めいているはずだから。  
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