832人が本棚に入れています
本棚に追加
スマホのアラームで目が覚めた。
いつもより広くてふかふかなベッドから身体を起こし、感嘆のため息と共に伸びをする。
……思いっきり熟睡できた。
寝る前は、悪夢を見るんじゃないか、一睡もできないんじゃないかと思っていたのに。
身支度を済ませリビングのドアを開けると、大きな革のソファーに横になり寝息を立てている門馬さんの姿が。
美しい寝顔を見て、申し訳なさと尊敬の念を覚える。
顔見知りというだけの、言ってみれば他人である私に、ここまで親切にしてくれるなんて。
夕べは私に自身の寝室を使えと言って聞かなかった。
そうでなければ隣で眠るぞ、と脅され、罪悪感を感じながらも門馬さんのベッドを借りたのだった。
「ん……」
寒そうに顔をしかめる門馬さんにハッとして、はがれていた毛布を肩までかけ直した。
『俺の家に置いてやる』
昨日、彼はあんなことを言っていたけど、酔いが回っての冗談だったかもしれない。
私だって、真に受けて本当にお世話になるつもりなんてない。
……一宿一飯の恩返しだ。
そう決意すると、マンションを出てコンビニに向かった。
────「おおお!」
一時間ほどして、朝食が出来上がったタイミングで門馬さんは目覚めた。
オムレツにトースト、コンビニに売っていたホタテの缶詰で作った即席クラムチャウダー。
テーブルに並べた料理を見つめ、門馬さんは目を輝かせる。
「朝飯作ってくれたのか!?」
彼は朝からテンションが高く興奮気味だ。
「勝手にキッチンお借りしてすみません。出過ぎた真似を」
「朝っぱらから謝るなよ。感謝する」
前開きのパジャマ姿でダイニングの席に着く門馬さん。
とまっていない第一ボタンからちらりと見える鎖骨、無防備な寝癖。
なんというか、寝起き特有の色気がすごい。
慌てて彼から目をそらし、コーヒーをカップに注いだ。
やっぱり早くここを出て行かないと、いろいろと刺激が強すぎる。
「お口に合えばいいのですが」
彼の前にコーヒーカップを置くと、上目遣いで微笑まれた。
「ありがとう!」
眩しい笑顔と真っ直ぐな「ありがとう」に心臓を射貫かれる。
なるほど、確かにこれは自己肯定感をかなりアップさせる効能がありそう。
最初のコメントを投稿しよう!